会社経営において、経営者が自社の資金繰りを把握することは、事業で利益を上げることと同じくらい重要です。
資金繰りを改善すれば、資金不足を解消するだけでなく、利益の増加につながることもあります。
「業績が好調だから、資金繰りは大丈夫」という考えでは、いざ資金不足に陥った時に効果的な対策を打つことができません。
経営者自身が自社の資金繰りを把握していれば、早期に資金不足の予兆をキャッチし、資金ショートを回避することができます。
今回は経営者が把握しておくべき資金繰りが悪化する原因と、具体的な資金繰り改善について解説します。
すでに自社の資金繰りが悪化する原因が掴めていて、すぐにでも改善策を講じられるという場合は、記事後半の「具体的な資金繰り改善策」をご覧ください。
資金繰りが悪化する原因
なぜ自社の資金繰りが悪化したのか、その原因を追求するところからはじめましょう。
会社の資金繰りが悪化したからといって、闇雲に資金調達をしたり、銀行にリスケを依頼したりしても、原因に合った改善策を講じなければ効果はありません。
資金繰りの状態を確認するためには「資金繰り表」が必須です。資金繰り表で悪化の原因を把握しておけば、効果的な対策を講じることができます。
ここでは、会社の資金繰りが悪化する主な原因をご紹介します。
売上の減少
会社に入ってくる資金が少なくなり、会社から出ていく資金のほうが多くなると、赤字となって会社の資金繰りは悪化します。
売上が減少する要因には、市場や経済の変化といった外的要因と、自社の商品やサービス、従業員の質の低下といった内的要因があります。
また、業種によっては、季節や災害などが影響する場合もあるので、注意が必要です。
売上の急増
売上が減少すると会社から出ていく資金が多くなりますが、逆に売上が急増しても、仕入れ費用や人件費、外注費といった経費が大きくなります。
とくに大口の取引は、支払条件が厳しく、売掛金が入金されるまでの期間が長期化しがちなので注意が必要です。
売上増加に伴って先払いの費用が急増、売掛金の入金は支払いの後という状態になると、資金繰りがショートしてしまいます。
売上の回収遅れ
企業間の取引は、商品・サービスの納入を先に行い、後から代金を受け取る「掛取引」が一般的です。
売上を回収するまでには、通常であれば1~2ヶ月程度、業種によっては半年以上先といったタイムラグが生じるため、その期間中に先立つ支払いが多いと、資金繰りが悪化します。
さらに、取引先の業績不振や倒産等により、売掛金が支払われない「貸し倒れリスク」もあるため、与信管理体制の構築が不可欠です。
過剰在庫
小売業や製造業など商品の在庫を抱えている業種は、過剰在庫も資金繰りを悪化させる原因となります。
過剰在庫によって想定以上に管理コストがかさみ、売却できないまま保管を続ければ、品質が劣化したり、需要が落ちたりして不良在庫化してしまいます。さらに、長期間在庫として抱えていた商品が売れたとしても、それまでの管理コストが売上を上回っているため、利益になりません。
いつもより低価格で仕入れられるといって、管理コストを超えような過剰在庫は抱えないように意識することが大切です。
過剰な設備投資
企業が設備投資をした場合には、購入した物品に応じて減価償却費が認められます。
減価償却費とは、設備や建物など長期利用を前提とした資産を購入した場合に、購入費の金額を毎年規則的に配分していく費用のことで、確定申告をすれば経費扱いとなります。
さらに、企業の設備投資費用の多くは、金融機関からの融資だよりです。
健全な経営には、借入返済額は営業利益内ではなく、税引き後利益の金額内におさめるべきですが、購入資産の減価償却費よりも借入の返済額が上回ると、利益のすべてを返済にあてることになってしまい、税金が支払えなくなってしまいます。
業績が好調であっても、資金投下はより慎重に判断し、過剰な投資は避けなければなりません。
借入金の返済
借入金の返済も、企業の資金繰りを悪化させる要因です。
資金不足だからと言って過剰な借入をしてしまうと、利益のほとんどを借入金の返済に回さなければならず、かえって資金繰りが圧迫されます。
その結果、さらなる資金繰りの悪化を招くリスクが発生するため、借入は資金繰り表と照らし合わせ、慎重に行う必要があります。
具体的な資金繰り改善策
資金繰り悪化の原因が掴めたところで、実際にどのような改善策を打てば良いのでしょうか?具体的な資金繰り改善策をご紹介します。
売上の早期回収
売上の回収までの期間(サイト)が長くなればなるほど、売上はあるのに資金がショートしてしまう黒字倒産のリスクは高まります。
売掛金はファクタリング、手形は手形割引を利用することにより、手数料こそかかりますが、早期回収および貸し倒れリスクの回避ができます。
回収サイトは1ヶ月早くなるだけでも、手持ちのキャッシュに余裕ができるため、早期回収により毎月キャッシュに余裕がある状況を作り出せば、各種支払いに困ることはありません。
さらに、取引先やクライアントと交渉して、入金日を早めてもらったり、代金引換や銀行振り込みなどの現金決済へ条件変更したりすることも有効です。
黒字倒産を防ぐためにも、可能な限り回収サイトを早める努力をしましょう。
過剰在庫の処分
多くの在庫を抱えていると、管理コストだけで資金繰りが圧迫されてしまいます。
売上が好調だからといって、仕入れや在庫が過剰になっていないか、自社の在庫を見直しましょう。
過剰在庫になっている分は、セールなどを利用して早期に売却するほか、在庫担保融資や商品在庫ファクタリングなどで有効活用する方法もあります。
経費の削減
手元の資金を増やして資金不足を解消するために、資金調達や売上を上げることも大事ですが、より根本的な資金繰り改善には、会社から出ていくお金を少なくすること、つまり、経費を削減することが肝心です。
会社の経費を一覧化して、売上・利益アップに貢献しているかどうか、支出のひとつひとつについてを検証しましょう。たとえば、金融機関からの融資を計画しているのであれば、役員報酬のカットは必須です。
他にも、在庫の管理コストが大きい場合はセールで処分したり、人件費を削減するために外注化したりなど、具体的な経費削減策を実行していきます。
支払いの繰延等の交渉
資金繰りを改善して健全な経営を続けていくには、「回収はできるだけ早く、支払はできるだけ遅く」が鉄則です。
売上の回収よりも支払いが先に来ているのであれば、仕入先にできるだけ支払を延ばしてもらうよう支払条件の交渉を行うことにより、資金繰りが楽になります。
また、資金不足だからといって税金を滞納すると、延滞税がかかって資金繰りが余計に苦しくなるだけでなく、社会的な信用を失ってしまうため厳禁です。
税金は会社が確実に支払わなければならないコストですので、支払いが厳しい場合は必ず税務署等に相談するようにしましょう。
営業キャッシュフロー内での投資
投資は企業の営業活動に欠かせない要素ですが、その原資がどこから出ているかということには注意を要します。
理想的な投資のあり方は、自社の営業キャッシュフローの範囲内に抑えること、つまり、営業で得たキャッシュ(フリーキャッシュフロー)がプラスであれば、投資資金に充てることです。
フリーキャッシュフローがマイナス状態で投資を行うとなれば、手持ちのキャッシュを削るか、金融機関からの借入に頼らなければなりません。
企業の投資資金は数百万~数千万円にのぼるため、いずれも資金繰りを大きく圧迫することは明白です。
投資を行う際には、まずその投資が本当に必要なものなのかを十分に検討したうえで、なるべくフリーキャッシュフローがプラスのときに実施するようにしましょう。
借入のリスケ・借り換え
借入の返済負担を軽減するには、「リスケ」と「借り換え」の2つの方法があります。
リスケ(リスケジュール、reschedule)とは、銀行など金融機関に毎月の借入の返済額や返済期間を見直してもらうことで、借り換えとは、現在の借入条件よりも金利を低くするなど有利な条件で借り入れをし直すことです。
いずれも、借入の返済負担を減らして、資金繰りを改善していくスキームとして活用されています。
リスケも借り換えも必ず審査が行われ、これまでの返済が遅れていないこと、経営改善計画書や資金繰り表で返済原資、返済計画を具体的な数字で示せることが条件です。
銀行はあくまでも、返済原資の捻出や経営改善計画が合理的であると判断した場合に応じてくれるのであって、無計画に「返済負担を軽くしたい」と交渉しただけでは審査に通りません。
最低限、経営者自身が経営改善計画書や資金繰り表を作成し、銀行と交渉するようにしましょう。
資金繰りの改善に関するQ&A
資金繰りの改善に関して、よくある質問とその回答をQ&Aにまとめました。
- Q.資金繰りが悪化すると、具体的にどのようなリスクが生じますか?
- A.資金繰りの悪化は、すなわち手元のキャシュが不足することですので、仕入れ費や店舗の維持費、人件費など事業運転に必要な支払いができなくなり、社会的信用を失います。さらに、手形の不渡りが半年に2回続くと、銀行の取引が停止するため、事実上の倒産となります。決算書上では黒字であっても売上の回収が支払いよりも後になれば、黒字倒産となる可能性もあります。
- Q.銀行に追加融資を交渉する場合、どのような準備が必要ですか?
- A.リスケと借り換えの項でも解説したように、経営改善計画書や資金繰り表で返済原資、返済計画を具体的な数字で示すことが重要です。また、不要な資産が貸借対照表に記載されていれば、審査で確実に不利になってしまいますので、事業で使っていない資産(遊休資産)があれば、早期に資金化しておくようにしましょう。
- Q.ファクタリングで売掛債権を資金化できるようですが、売掛先が難色を示しそうで不安です……
- A.「2社間ファクタリング」を利用すれば、売掛先の同意を得ずに売掛債権の資金化が可能です。通常の「3社間ファクタリング」よりも手数料は高くなりますが、売掛先に資金繰りに困っていることを知られたくない、即日で資金が必要といったケースでは、2社間ファクタリングの利用をおすすめします。
- Q.資金繰りを悪化させないためには、具体的にどのような対策が必要でしょうか?
- A.まずは、経営者自身が自社の資金繰りを把握している必要があります。会社が倒産に陥るのは、赤字経営になったっときではなく、手元の資金が尽きたときです。たとえ売上・利益があっても、売掛金の回収ができなければ手元の資金が不足し、黒字倒産になってしまいます。手元のキャッシュがいつ不足するか、いつ対策を打てば資金不足を回避できるか、経営者自身が資金繰り表を作成して、会社の資金の流れを管理するようにしましょう。
- Q.資金繰り改善や銀行との交渉を専門家に支援してもらいたいのですが?
- A.会計士や税理士、資金繰りコンサルタントなどの専門家に相談しましょう。経営者は本来、会社の本業にリソースを割くべきで、経営状態の分析や金策がメインになると、経営改善もままなりません。専門家に財務面の支援を依頼し、適切な改善策を提案してもらうと良いでしょう。
自社の資金繰りの状況は「資金繰り表」で確認を
会社の資金繰りが悪化する原因と、具体的な資金繰り改善策について解説しました。
業績が好調なときでも常に資金繰りを見直し、いざというときの資金不足に備えておきましょう。
実際に、今般の新型コロナウイルス感染拡大やその後の社会情勢の変化により、業績好調から転落して資金繰りが困窮する会社は少なくないと予想されます。
自社の資金繰りが悪化する原因を知り、その原因にもっとも効果的な改善策を打つことが健全な会社経営には重要です。
たとえば、資金不足に陥ったときに、追加融資、ビジネスローン、ファクタリング、リスケ、借り換えなど切れるカードが多いほど、早期に経営を立て直すことができます。
私どもベストファクターは、ファクタリングと財務コンサルティングを通じて、中小企業、個人事業主の皆様の資金調達・資金繰りを支援します。
資金不足に困っている、銀行からの融資が望めないといったお悩みがありましたら、ぜひベストファクターにご相談ください。