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ファクタリングと法律の問題が「偽装(似非)ファクタリング(悪質業者)」として討議の場に上げられることがあります。それは、ファクタリングという資金調達方法がわが国ではまだ比較的新しいものであり、法整備及び管理監督がなされていないことにその一因があります。
ファクタリングは、欧米圏では16世紀以前より利用されており、借入や投資とは異なる第三の資金調達方法として、経済産業省及び同省関係庁、並びに全銀協なども推奨している有効な資金調達の手段です。
国や地方公共団体では当たり前.pdf[出典:https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/urikake_panhu2.htm]
しかしながら、現状、金融取引の様にファクタリングを規制する法律が存在しないことから、その妥当性が民法に委ねられることになるため、ファクタリングを利用する会社にとって不利な契約が発生し得る状態にあると言えます。
また、誠に残念ながら、こうした法律の穴を突いた営業を行う一部の悪質な業者も存在し、ファクタリングと称して違法な貸付を行うなど、現行の法律に抵触する行為を行っている事実も確認されています。
では、まだ認知度の低く法整備の整っていないファクタリングサービスですが、悪質な業者を見極める事はできるのでしょうか。その準法と違法の境界はどこにあるのでしょうか。
当記事では、ファクタリングの手数料の妥当性、金銭貸借契約(貸付)と債権売買契約(ファクタリング)の違い、偽装ファクタリング 業者の存在が問題視されている2社間ファクタリングについて解説していきます。
まずはファクタリングの定義から見ていきましょう。
記事の目次
ファクタリングの定義
ファクタリング (factoring) とは、他人が有する売掛債権を買い取って、その債権の回収を行う商取引を指す。
参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/ファクタリング
ファクタリングは商取引であり、事業で生じた売掛金(請求書)を割引して第三者(ファクター)に売却することである。
英国では、通常、債務者が債権の譲渡について通知されず、債権の売り手がそのファクターに代わって債務を回収するという点で、取り決めは機密事項となっている。
参考:https://en.wikipedia.org/wiki/Factoring_(finance)
Wikipediaによると「ファクタリングは売掛金を買い取って資金提供するサービス」であり、またイギリスのファクタリングは、通常2社間ファクタリングを指すと記述されています。
ファクタリングはイギリスをはじめ大航海時代の欧米圏で、貿易による売上の早期資金化や保険として誕生し、株式と同様に証券商品の1つとして認識されていました。
こうした事実をもって、2社間のみで契約するファクタリングが、それだけで直ちに問題視されることだとは言えません。
ファクタリング会社が負うリスク
2社間契約も3社間契約と同様、ファクタリング会社は、買い取った債権に関するすべてのリスクを想定して取引を行い、このリスクに応じて債権の割引を行います。米国では、ファクタリング会社が信用リスクを引き受けない場合、裁判所はほとんどのケースでその取引を担保付ローンとして扱います。
ファクタリング会社は以下のリスクを負います。
- 顧客およびリスクのある債務者に関連する相手方の信用リスク。
- 顧客による詐欺:偽の請求書発行、誤った請求、事前請求書発行、未割り当てのクレジットノートなど。
- 法的、コンプライアンスおよび税務上のリスク:さまざまな国で適用される多数の法律および規制。
- 契約上の紛争などの運用上のリスク。
- 資産への権利を保証する統一商法(UCC-1)。
- 給与税などに関連するIRS先取特権。
- ICTリスク:複雑で統合されたファクタリングシステム、クライアントとの広範なデータ交換。
次に、ファクタリングの契約と契約別に生じるリスク、事業内容について整理していきます。
3社間(三者間)ファクタリングとは
3社間ファクタリングとは、ファクタリング利用会社とファクタリング事業者、売掛先の3社間の合意で成立する契約です。
3社間ファクタリングでは、売買の対象となった売掛先に対する売掛金は、買い主であるファクタリング事業者が回収し、もしその債権が回収不能となった場合の貸し倒れリスクを負担します。また、債権の売り主であるファクタリング利用会社に対する償還請求権はありません(ノンリコース)。
ファクタリング事業者が債権の回収を売掛先に対して直接行うには「ファクタリング利用会社から売掛先への通知」が必要です。
3社間ファクタリングでは、ファクタリング事業者は以下のリスクを負います。
- 売掛先の倒産等支払い遅延・不能リスク
2社間(二者間)ファクタリングとは
2社間ファクタリングとは、ファクタリング利用会社とファクタリング事業者の2社間の合意で成立する債権の売買契約です。
2社間契約も同様、もしその債権が回収不能となった場合の貸し倒れリスクを負担します。また同様、債権の売り主であるファクタリング利用会社に対する償還請求権はありません(ノンリコース)。
売掛先への通知を必要としないため、契約締結までのプロセスが単純で中小ファクタリング事業者で広く普及しています。また、3社間ファクタリングと比較して債権回収が不能となるリスクが高まるため、手数料は高くなる傾向があります。
2社間契約では、売掛先に債権譲渡の通知をしないため、通常、ファクタリング事業者は売掛先に直接債権の支払い請求を行いません。そのため、債権譲渡が行われた時点で債権者はファクターへ移行しますが、利用会社に対して売掛先に通常通り請求を行いその代金を引き渡しを受けるための「集金業務委託契約」を行います。
債権の買い主であるファクタリング事業者が売り主である利用会社に対して、買い取った売掛金に係る請求や回収などを無償で委託するという契約であり、利用会社は当該債権を回収後にファクタリング事業者に遅滞なく支払うと約定する契約の事です。
つまり、「通常通りに請求書の支払いを受けたら、そのままファクタリング事業者に入金してください」という契約を指します。
2社間ファクタリングでは、ファクタリング事業者は下記のリスクを負います。
- 売掛先の倒産等支払い遅延・不能リスク
- 利用会社の倒産等支払い遅延・不能リスク
- 利用会社の使い込みリスク
また、2社間ファクタリングは、簡易な取引であるその性質上、偽装(似非)ファクタリング業者が正規業者を装って営業する際にも用いられています。
次に、この記事の主題である2社間ファクタリングの装った違法貸付を行う偽装ファクタリングについてご紹介します。
偽装(似非)ファクタリングとは
偽装(似非)ファクタリングとは、主に2社間ファクタリング契約を装い、利息制限法を遥かに超過する金利で貸し付けを行うなどの違法行為を指します。
ファクタリングと貸付の違いは、集金不能になった場合の保全措置を取っているか否かによって判断されます。
悪質な偽装ファクタリング業者は、利用会社に対して債権の保全措置を取ります。この保全措置が担保性と判断されたり、また相応のリスクを負っていないという事実より貸付と判断される事になります。
先日偽装ファクタリングの注意勧告のため金融庁から資料が配布されました。
- 高額な手数料が差し引かれる。
- 契約書に「売買契約」で有ることが定められていない。
- 集金代行契約について回収できない場合に、支払いの責任を負う事になっている。
資料に続いて実際にファクタリングではなく貸付と判断され、利息制限法が適用された判例の要素を分解してみていきましょう。
偽装(似非)ファクタリングの違法性
貸付とファクタリング、貸付の利息とファクタリングの手数料とは全くの別物です。
ファクタリングは、企業が所有する売掛金(売掛金)をファクタリング事業者へ手数料を支払って売却する売買契約です。
売掛金を「売買」している点において、売掛金の担保や金銭の貸付けではないため、ファクタリング取引に対して金利を制限する利息制限法や貸金業法が適用されることはありません。
しかし、過去には「利用会社が債権買取代金の一部しか受け取っていないこと」「支払いの遅れで違約金を支払わせたこと」などをめぐり、利息制限法違反や貸金業法違反として「ファクタリング手数料の妥当性」が問われる悪質な偽装(似非)ファクタリング事業者が提訴され、ファクタリング事業者に対し、受け取った金額の一部の返還を命じた判例もあります。
現在でも、ファクタリングを隠れ蓑にして高額な手数料を要求したり、利用者に不利な保証などの契約を持ちかけたりする貸付行為など、悪質な偽装(似非)ファクタリングが少なからず横行しています。
では次に、偽装(似非)ファクタリングの違法性を理解するために、まずはファクタリングに利息制限法を適用した判例を見ていきましょう。
ファクタリングに利息制限法が適用された判例
平成29年3月3日判決の「当事者間のファクタリング取引が金銭消費貸借及びその返済に準じるものとされた事例(判例タイムズ1439号179頁)」の概要はおおむね次のとおりです。
- 利用会社(原告)は、100万円の債権をファクタリング事業者(被告)に売却する。
- 被告は債権の売買代金を100万円と決めつつ、原告に内金として60万円だけを支払う。
- 被告が原告から債権全額の弁済を受けたら残り40万円を支払う(被告が満額を回収できなかった場合は払わなくてよい)。
- 原被告間で上記の金銭の授受が繰り返された。
原告の訴えは、原告が支払うべき約定の金額と原告が受領した金員との差額は、被告から原告に支払われる代金額を仮に貸金の元本とした場合、利息制限法所定の制限利率による利息額を大きく上回るものだったため、原告がその過払金相当額の返還を求めたものです。
判決では原被告間の契約が「形式上は債権譲渡」であるものの、その実態は「金銭消費貸借」であるとして、被告が取得した利息制限法所定の制限利率による利息を上回る金額(過払い金)の返還が命じられました。
この貸付と判断された判例で重要なポイントは次の3つです。
- 手数料とファクタリング事業者が負うリスクの妥当性。
- 利用会社が債権売買代金の一部しか受け取っていないこと。
- ファクタリング事業者が債権の一部のみを買取対象としたこと。
それぞれのポイントについて詳しく解説していきます。
ここではわかりやすく以下の数字を用います。
債権額 | 120万円 |
---|---|
買取額 | 100万円 |
ファクタリング手数料 | 20万円 |
ファクタリング手数料率 | 20% |
保証金 | 40万円 |
判例のポイント①手数料とファクタリング事業者のリスクの妥当性
ファクタリングの手数料は、ファクタリング事業者が負担するリスクに準じています。
たとえば、売掛先が上場企業や国・自治体の機関など、ファクタリング事業者が負う債権回収リスクがきわめて低い場合は手数料が低く設定されます。
つまり、判例の様に偽装ファクタリング事業者が保全措置を取るなど、事実上負うリスクが低いにも関わらず高い手数料を設定した場合、リスクと手数料額の程度が乖離していると判断されることがあります。
判例では手数料とファクタリング事業者のリスクの妥当性について、次のように指摘しています。
- 原告・被告間の金銭の授受が、仮に金銭消費貸借契約であれば、被告は利息制限法で定められた制限利率の限度でしか利息を収受することができない。
- 債権の売買契約という名において、利息制限法で定められた制限利率による利息を上回る差額を取得するならば、これを正当化できる事情があるべき。
金銭消費貸借契約の場合は、利息制限法により最大で年利20%と規制があるため、それ以上の利息を受け取ると過払い金となります。
仮に偽装ファクタリング事業者が利息制限法を超える利息を受け取り、自社の利益とするならば、高い手数料を受け取るだけのリスク(債権回収リスク等)を負うべきというのが本件の主旨です。
したがって、ファクタリング事業者が高額なファクタリング手数料を正当化するだけのリスクを負わない限り、「ファクタリングと称した貸付」とみなされても否定できません。
判例のポイント②利用会社が債権売買代金の一部しか受け取っていないこと
本件の事案では、偽装ファクタリング事業者は債権の売買代金を100万円と決めつつ、利用会社に内金として60万円だけを支払い、残りの40万円は偽装ファクタリング事業者が利用会社から債権全額の弁済を受けたら支払う(保証金)という契約内容でした。
つまり、売掛金120万円を60万円で買い取り、利用会社からの80万円の支払いで弁済・相殺するという事です。
偽装ファクタリング事業者は債権売買代金40万円の支払いを先延ばしにしているだけで、債権の残り40万円分が焦げ付いたとしても20万円の損失にしかなりません。
さらに、債権の残額が貸付で設定される「担保」や「保証」とみなされるような扱いとなっており、この点についても判例の金銭授受は債権売買契約とは言い難い実態があります。
判例のポイント③偽装ファクタリング事業者が債権の一部のみを買取対象としたこと
こちらは②の論点と同様ですが、利用会社の債権の査定額を請求書額面から割り引く形や、また、利用会社が希望する最低額のみを支払ったという事です。
登記を行わない限り、通常、売掛金はいくつかに分割できるものではないため、たとえ一部であっても事実上その全額を押さえることになります。全額譲渡するのではなく、その一部のみを対象としている点で、②同様、偽装ファクタリング事業者の債権回収のリスクは軽くなっています。
そのため、その意図がなくともこれが担保性として判断される可能性があります。
ファクタリングが金銭貸借契約とみなされるケース
判例の原被告間の金銭の授受は、ポイント①~③により金銭消費貸借契約に準じるもので、利息制限法の類推適用を受けるものと判断されました。
他にも、次のような場合はファクタリングが金銭貸借契約とみなされるケースがあります。
その他の判例④利用会社の支払い遅延に対して違約金を支払わせたこと
支払日に支払いができないことを理由に違約金を請求した業者があり、こちらも判例で貸金行為とされています。
利用会社が売掛金を回収したにも関わらず偽装ファクタリング事業者に対する支払い業務を怠ったケースでは「違約金」としてひと月あたり買取額の 2~3 割の金額を支払わせることにより弁済の期限を延長しました。
しかしこれが、貸付額に対する金利に相当すると判断され、こちらも利息制限法との差額の返還が命じられました。
- 利用会社が債権売買代金を支払えない場合に違約金が発生する旨の契約をする。
- 支払い期日に全額支払わせず、これを利息ないし違約金扱いとして、それ以後に全額支払わせる。
- ファクタリングと称して債権を担保にした貸付(ABL)を行っている。
実際に、ファクタリングを隠れ蓑にして貸付を行っていた貸金業法が貸金業登録をしていなかったために逮捕され、有罪判決を受けた事例もあります。
本来のファクタリングは債権売買契約で、金銭貸借契約の返済や利息といった概念はなく、3社間ファクタリングでは売却した売掛債権の支払いを受け取る権利はファクタリング事業者に移ります。
しかし、2社間ファクタリングは売掛先を介さずに取引が行われるため、債権を売却した利用会社の口座に売掛先からいったん売掛債権が支払われ、受け取った金額をファクタリング事業者へ渡す仕組みです。
2社間ファクタリングのこれから
ファクタリングの妥当性は、ファクタリング手数料の妥当性と言い換えることができます。
2社間ファクタリングの契約を締結する際、通知等をしないことから、通常、直接売掛先への請求を行わないため、ファクタリング利用会社と「業務委託契約(集金)」を締結します。
業務委託契約について、「2社間契約における債権回収業務代行委託契約は、本来3社間ファクタリングでは省かれるはずの回収業務を当契約会社に負担させたままであること」など、2社間ファクタリングの妥当性の判断のひとつに業務負担の割合があるというような微妙な論点があります。
しかしこの論点について、2社間ファクタリングをリスク面から説明することができます。ファクタリング事業者は債権回収業務を利用会社に委託しているものの、例えば債権回収会社の様に債権回収にかかる猥雑な手続きを行ったり、その未回収リスクを負うというわけではなく、「実質的に、利用会社は今までの取引となんら変わらずその支払を受け取る」だけであるため、債権回収業務の負担を負わせているとまでは言うことできません。また、もしその債権が回収できなくなった場合、その貸し倒れリスクをファクタリング事業者が負担することになります(ノンリコース)。
これら手間とリスク面のバランスを考慮すると、一部で誤って認識されるている様な、「2社間ファクタリングの業務委託契約(集金)はファクタリング事業者の負う業務が免除されているため信用リスクが軽減されている」という議論は事実に反しています。
ファクタリングとは、売掛金の早期資金化を目的として、保有売掛金をファクタリング事業者に売却することであり、また、2社間ファクタリングは、3社間ファクタリングとは異なる、大事な取引先からの信用を失いたくないという利用会社のニーズによって選択される資金調達の手段です。
2社間ファクタリングと3社間ファクタリングは、利用会社のニーズによって選択されるものであり、何百年も以前より進化して来たファクタリングサービスは、これからもテクノロジーや経済の進展に伴って、2社間・3社間ともにさらなる発展を続けて行くでしょう。