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事業を営むうえで、掛取引や買掛金への正確な理解は欠かせません。買掛金とは、掛取引の仕入れで後払いするときに使用する勘定項目です。
今回の記事では、買掛金の定義・ほかの勘定項目との違い・基本的な会計処理の仕方・実際の仕訳例などをまとめました。くわえて、買掛金の管理に重要なポイントも解説します。
本記事を読めば、事業運営に必要不可欠な買掛金の正確な知識を手に入れられます。買掛金をしっかりと理解し、取引先との信頼関係を維持して持続的な経営を目指しましょう。
記事の目次
買掛金とは
買掛金とは掛取引で代金を後日、支払うときに使う勘定項目です。掛取引とは商品の引き渡し時に代金の支払いを行わず、決済期日にまとめて支払う取引方法です。
買掛金は仕入れに関連する取引の勘定項目であり、固定費・リース料・水道光熱費などは該当しません。買掛金が発生する掛取引で、押さえておくポイントは以下の通りです。
- 支払いがまとめて行えるので管理が簡単
- 現金の受け渡しと比較して、大きな額の取引に向いている
- 掛取引は信用取引とも呼ばれる
掛取引は現金取引と比べて利便性が高く、決済期日にまとめて支払いができるためB to B取引において一般的です。買掛金は、貸借対照表の貸方の流動負債に記載する勘定項目になります。貸借対照表とは企業の資産・負債・純資産を記し、総合的な損益額が明らかになるようまとめた表のことです。
流動負債とは営業取引によって発生し、1年以内に支払期日を迎える負債を指します。
買掛金の支払期日や金額をしっかりと管理すれば、取引先からの信頼性を高めることにもつながります。良好な取引関係を築き、継続的な事業運営をするうえで買掛金の管理は非常に重要です。
買掛金と売掛金・未払金・未払費用の違い
買掛金と混同される用語には、以下の3つがあります。
- 売掛金
- 未払金
- 未払費用
買掛金と売掛金・未払金・未払費用の違いについて、わかりやすく解説します。
売掛金と買掛金の違い
買掛金は仕入れのとき、売掛金は商品・サービスの販売時に使用する勘定項目です。
売掛金とは商品を販売して、将来的に代金を受け取る権利のことです。売掛債権とも呼ばれ、債権の一種として貸借対照表の借方に資産として記載されます。売掛金はツケをイメージすると非常に理解しやすいでしょう。
売掛金・買掛金ともに掛取引で重要な勘定項目です。それぞれの仕組みをしっかりと理解し、スムーズに企業間の取引を行いましょう。
未払金と買掛金の違い
未払金と買掛金の違いは、仕入れに関連しているかどうかです。未払金は仕入れに関連しない営業外取引で、単発的に発生した債務を区分する勘定項目です。
未払金とは、企業に発生する一時的な債務のうち未払費用・買掛金に該当しないものを指します。証券の購入代金・消耗品費・外注加工費・備品の代金などが未払金の具体例です。
月末払い・ローン・分割払い・クレジットカードによる購入も未払金に含まれます。1年以内に支払期日を迎えるものは、未払金として貸借対照表の流動負債に計上します。一方、支払期日が1年を超えるものは長期未払金として固定負債に計上してください。
買掛金は必ず流動負債に計上される点も、未払金とは異なるポイントです。
未払費用と買掛金の違い
未払費用は買掛金と異なり、仕入れに関連せず継続的な契約で生じる費用です。ただし、貸借対照表では買掛金と同じく流動負債に区分されます。
継続的な契約で生じる費用とは、後払いができる保険料・貸借料などです。以下の具体例から、どのような費用が未払費用になるのか押さえておきましょう。
- 水道光熱費
- 従業員への給与
- 建物や土地の賃貸費
- リース代
- 保険料
- 借入金の利息
- 通信費用
なお、未払費用と未払金の違いは単発か継続かという点です。未払費用が継続的な契約で生じるのに対し、未払金は単発の取引で生じる費用となります。
買掛金の会計処理の基本的な流れ
買掛金の会計処理の基本的な流れは以下の通りです。
- 商品を注文する
- 商品を仕入れる
- 請求書を受け取る
- 商品の代金を支払う
- 買掛金残高を確認する
それぞれの段階についてわかりやすく解説します。
1.商品を注文する
取引先に商品を注文します。
注文した時点では商品・お金ともに動きませんので、仕訳の必要はありません。
2.商品を仕入れる
たとえば、10,000円の商品を仕入れたタイミングで以下のように貸借対照表で仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
仕入高 | 10,000円 | 買掛金 | 10,000円 |
商品の仕入れタイミングとは、商品が引き渡されたタイミングを指すことが一般的です。仕入れの計上タイミングは、大きく分けて主に3つの基準が存在します。
- 出荷基準:仕入れ先が商品を発送した時点
- 入荷基準:商品を受け取った時点
- 検収基準:商品の検収が終わった時点
基準は企業によって異なりますので、自社の仕入れタイミングのルールを前もってチェックしましょう。
3.請求書を受け取る
取引先から送付された請求書を受け取ります。請求書に記載されている支払期限までに、仕入れた商品の代金を支払う準備をしてください。
なお、請求書を受け取ったタイミングで会計処理は発生しません。
4.商品の代金を支払う
支払期限までに、買掛金として処理した分の代金を現金・振り込みなどで取引先に支払いましょう。支払いが終わったら、以下のように買掛金を消す仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | 10,000円 | 現金 | 10,000円 |
もし、取引先に預金口座から振り込みを行い、手数料が220円かかった場合は以下のように仕訳してください。
借方 | 貸方 | ||
仕入高 | 10,000円 | 普通預金 | 10,220円 |
支払手数料 | 220円 |
5.買掛金残高を確認する
会計処理が適正に行われているか確認するため、定期的に買掛金残高をチェックしましょう。
会計ソフトを利用すると、より正確に買掛金の管理が可能です。会計ソフトにはクラウド型・インストール型がありますが、データを外部にバックアップできるクラウド型がおすすめです。
買掛金の仕訳例
買掛金の仕訳例について、以下のパターンを解説します。
- 商品を仕入れた場合
- 仕入れた商品の値引きがあった場合
- 売掛金と相殺した場合
実際にどのような形で買掛金を仕訳するのか、しっかりとポイントを押さえましょう。
商品を仕入れた場合
商品を仕入れたときの基本的な仕訳の仕方を紹介します。仕入れた商品を受け取ったタイミングで仕入れの処理を行い、後払いにする代金は買掛金として負債の部に計上します。
たとえば、10,000円の商品を仕入れた場合は以下のように仕訳をしましょう。
借方 | 貸方 | ||
仕入高 | 10,000円 | 買掛金 | 10,000円 |
決済期日に買掛金を買掛先に支払い、貸借対照表では以下のように処理を行ってください。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | 10,000円 | 現金 | 10,000円 |
もっとも基本的な仕訳方法なので、しっかりと押さえておきましょう。
仕入れた商品の値引きがあった場合
仕入れた商品の値引きがあった場合には、買掛金から返金分の金額を減額します。たとえば、自社が10,000円の商品を掛取引で仕入れ、2,000円の割引が発生したケースを解説します。
仕入れをしたときの会計処理は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
仕入高 | 10,000円 | 買掛金 | 10,000円 |
その後、値引き分の会計処理を以下のように行います。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | 2,000円 | 現金 | 2,000円 |
売掛金と相殺した場合
取引先に売掛金・買掛金のどちらもある場合、了承を得たうえで相殺が可能です。基本的な処理の流れは、売掛金・買掛金それぞれの残高から相殺した金額を減額します。
たとえば、10,000円の買掛金を売掛金で相殺するケースを段階別に解説します。まず、通常の仕入れと同じように仕訳をしてください。
借方 | 貸方 | ||
仕入高 | 10,000円 | 買掛金 | 10,000円 |
取引先に10,000円の商品を販売したときの仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
売掛金 | 10,000円 | 売上高 | 10,000円 |
現在、売掛金・買掛金ともに10,000円の状態です。取引先の了承を得て相殺すると、以下のような仕訳になります。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | 10,000円 | 売掛金 | 10,000円 |
買掛金を管理するうえで重要な5つのポイント
買掛金を管理するうえで知っておきたい、重要な5つのポイントを紹介します。
- 買掛金の管理不足は取引先との信用問題に関わる
- 買掛金の回転期間を把握する
- 買掛金の回転率を把握する
- 買掛金は5年で時効が成立する
- 買掛金残高の確認は定期的に行う
しっかりとポイントを押さえて、買掛金の管理を適切に行いましょう。
買掛金の管理不足は取引先との信用問題に関わる
買掛金の管理が不十分で支払いが遅れると、取引先との信用問題に発展する恐れがあります。
買掛金が発生する掛取引は信用取引とも呼ばれ、手形などの書類がなくても企業同士の信用で後払いが成り立っています。支払いの遅れや入金の誤りがあると、取引先からの信用を損なうリスクがあるため注意しましょう。
信用を損なえば将来的な取引に影響し、新たなビジネスチャンスを逃すことにつながりかねません。
また、支払先が下請法に該当する事業者の場合、下請代金支払遅延等防止法の違反となり遅延利息を支払う義務が生じます。支払いが遅れた日数分に、年率14.6%をかけた金額を支払わなければなりません。
取引先との良好な関係のために、買掛金台帳の定期的なチェックをしてミスが生じにくい環境を整えましょう。
買掛金の回転期間を把握する
買掛金の回転期間とは、商品を仕入れてから代金を決済するまでの平均期間のことです。資金繰りの状況を確認するのに、買掛金の回転期間は非常に重要な指標です。
買掛金の回転期間は、年度末の買掛金残高と年間の売上原価で算出します。以下の式を用いて、買掛金の回転期間を計算しましょう。
買掛金の回転期間(月)=買掛金残高÷(売上原価÷12)
買掛金の回転期間(日)=買掛金残高÷(売上原価÷365)
買掛金の回転期間を知れば、仕入れの支払いが早いか遅いか判断できます。数値が低ければ支払いが早く行われており、高ければ遅い状態です。支払いが遅ければ遅いほど、手元に残るキャッシュは大きくなる傾向にあります。
財務相が発表している全産業の買掛金の回転期間は1.37月(41日)です。製造業・非製造業で規模別に買掛金の回転期間を表にまとめました。
資本金 | 1,000万円未満 | 1,000万円~1億円 | 1億円~10億円 | 10億円以上 |
製造業 | 0.76月(22日) | 1.43月(43日) | 1.78月(53日) | 1.7月(51日) |
非製造業 | 0.62月(18日) | 1.22月(36日) | 1.55月(46日) | 1.37月(41日) |
買掛金の回転期間の把握は、経営判断をするためにとても大切です。適切な数値になっているかどうかを定期的にチェックしましょう。
買掛金の回転率を把握する
買掛金の回転率は、仕入れで発生した買掛金をどのくらい効率的に支払っているのかを示す数値です。年間の売上原価を年度末の買掛金残高で割って算出します。具体的な計算式は以下の通りです。
買掛金の回転率=(売上原価÷買掛金残高)×100
買掛金の回転率は支払い期間によって左右されます。支払い期間が短いと買掛金の回転率は高くなり、長いと低くなります。なお、手形やでんさいなどほかの仕入債務がある場合は、仕入債務の総額を使って仕入債務回転率を計算しましょう。
買掛金の支払い期間が長い方がキャッシュが残り、資金繰りが楽になります。ただし、買掛金の回転率が低すぎると経営状態の悪化・キャッシュ不足などが疑われます。
業種・業態によって適正水準は異なりますが、買掛金の回転率の目安は1,200%です。買掛金の回転期間と回転率の両面から、買掛金の管理が適切かどうか判断しましょう。
買掛金は5年で時効が成立する
買掛金の時効は5年と定められており、条件をクリアすれば支払いを拒むことができます。時効が成立する条件は以下の通りです。
- 5年間の間に支払い請求を受けていない
- 5年経過後に請求されて一部を支払っていない
- 内容証明郵便で時効援用通知書を債権者に送り、時効の制度を利用する意思を示した
上記の条件を1つでも満たしていないと時効は成立しません。5年が経過したからといって、自動的に時効が成立するわけではないので注意しましょう。
買掛金残高の確認は定期的に行う
買掛金残高の確認は定期的に行いましょう。会計処理のミスや支払いの遅れが発生すると、取引先に迷惑をかけて信頼性を損なう恐れがあるからです。
買掛金残高を確認するには、買掛金元帳を活用してください。総勘定元帳は勘定項目のすべての取引を記載しているのに対し、買掛金元帳は取引先ごとの残高や取引が確認できる帳簿です。
会計ソフトで会計処理をしているなら、取引先名を入力すれば自動的に買掛金元帳が作成されます。会計ソフトを活用して、効率的で正確に買掛金を管理しましょう。
取引先との関係を良好に保つためにも、買掛金残高の確認日を設定するなど定期的にチェックする環境を整えてください。
買掛金に関するよくある質問
買掛金に関するよくある質問を解説します。
- 買掛金が多いデメリットは?
- 買掛金がマイナスになる理由は?
- 買掛債務とは?
- 買掛金元帳とは?
前もって疑問を解消し、買掛金に関するトラブルを上手に回避しましょう。
買掛金が多いデメリットは?
買掛金が多いことで発生するデメリットは以下の通りです。
- 取引先が多いと管理の難易度が上がる
- 銀行融資・ビジネスローンなどの審査で不利になる
買掛金がある取引先が多ければ多いほど、管理のための労力が必要になります。請求・会計などの業務コスト増加を解消するため、自社に最適な会計ソフトを導入しましょう。
くわえて、買掛金の多い企業は銀行融資・ビジネスローンの審査で不利になる恐れがあります。買掛金は債務であり、貸借対照表では負債の部に計上されます。買掛金が多い企業は、金融機関から経営が不安定だと判断されるリスクが高いです。
買掛金の支払いが困難な場合は、売掛債権の売却で資金繰りを改善できるファクタリングの利用を検討してください。
買掛金がマイナスになる理由は?
買掛金がマイナスになる理由として、会計上のミスが考えられます。なぜなら、貸借対照表を正確に記帳していれば買掛金がマイナスになることはないからです。
以下のような会計上のミスをすると、買掛金がマイナスになります。
- 間違って代金を多く支払った
- 実際より小さな金額を計上した
解決するには、いつから買掛金がマイナスになったのか確認しましょう。マイナスになった時期の近辺で、入力にミスがないかチェックしてください。
買掛債務とは?
買掛債務とは、掛取引でまだ支払っていない代金を支払う義務です。買掛金や支払手形といった勘定項目が買掛債務に該当します。
買掛金が後払いする代金の額なのに対し、買掛債務は支払う義務自体を意味する言葉です。
なお、未払金や未払費用も取引によって生じる債務ですが、厳密には買掛債務ではありません。買掛債務は、未払金や未払費用と異なり仕入れによって生じることが特徴です。
買掛金元帳とは?
買掛金元帳とは、それぞれの取引先の買掛金残高を管理する帳簿です。取引先ごとに仕入れした商品の金額・数量・日付などを記録します。
買掛金元帳は、支払いの漏れを防止して買掛金残高を確認するのに役立ちます。買掛金元帳が自動的に作成される会計ソフトもリリースされています。会計業務を効率化し、適切に買掛金を管理するために会計ソフトの導入を検討しましょう。
買掛金を正しく理解して取引をよりスムーズに行おう!
買掛金は企業間において、支払いの手間を軽減してスムーズに取引するために欠かせない要素です。買掛金とは、掛取引で代金を後払いするときの勘定項目です。
今回の記事では、買掛金の定義・管理するポイント・実際の仕訳例などを解説しました。事業が拡大して取引先が多くなるほど、買掛金の管理は重要になります。
買掛金の適切な管理のためには、正確な会計知識が欠かせません。重要なポイントを押さえて買掛金をしっかり管理し、取引先と良好な関係を保ちましょう。