この記事は約29分で読めます。
会社の業種や規模に関わらず、資金調達は経営者を悩ませる大きな課題の一つです。一般的に個人事業主よりも銀行からの融資が受けやすいと言われる法人も、審査次第で融資を断られることも少なくありません。
会計ソフトで知られるfreeeが行ったアンケート調査によると、中小企業が抱える資金調達の悩みの第1位は「自社に適した資金調達先の選び方」と報告されています。中小企業の経営者の多くが、資金調達先と言えば取引のある銀行以外に知らないというケースも多く見られます。
法人が利用しやすい資金調達方法は、銀行融資だけに限りません。今回は法人の資金調達に適したさまざまなスキームをご紹介します。
記事の目次
- 1 法人の資金調達方法の3分類
- 2 法人の資金調達①デットファイナンス
- 2.1 日本政策金融公庫の融資制度|他の金融機関より遥かに低い金利
- 2.2 銀行のプロパー融資|比較的金利が低く高額融資も可能
- 2.3 信用保証付き融資|保証付きで銀行から融資が受けやすくなる
- 2.4 ビジネスローン|銀行融資より金利は高めだがスピード融資が可能
- 2.5 不動産担保ローン(ノンバンク)|柔軟審査かつ融資実行まで最短3日
- 2.6 売掛債権担保ローン(ノンバンク)|担保不動産のない法人でも利用可
- 2.7 手形割引(ノンバンク)|手形の早期現金化スキーム
- 2.8 少人数私募債|社債を活用した中小企業の投資資金の調達方法
- 2.9 社内預金制度|会社と労働者の両方にメリットがある資金調達方法
- 2.10 個人からの借入|面倒な手続きが不要で融資を受けられる
- 3 法人の資金調達②エクイティファイナンス
- 4 法人の資金調達③アセットファイナンス
- 5 助成金・補助金|国や自治体からもらえる返済不要の資金
- 6 法人が資金調達を有利に進めるコツ
- 7 法人の資金調達に関するQ&A
- 8 法人の資金調達方法はさまざま
法人の資金調達方法の3分類
資金到達の方法は、以下の3種類に大別されます。
- 負債を増やす「デットファイナンス」
- 資本を増やす「エクイティファイナンス」
- 資産を現金化する「アセットファイナンス」
それぞれの調達方法の特徴を知れば、自社の資金ニーズにとってもっとも適した資金調達方法を選ぶことができます。
デットファイナンス|負債を増やして資金調達
デットファイナンス(Debt Finance)は、負債(=デット)を増やす資金調達方法です。金融機関から期限付きで融資を受け、定められた元本と利息を返済します。直近で利益を出すための原資として、売上入金までのつなぎ資金としての利用に向いています。
デットファイナンスのメリット
デットファイナンスの最大のメリットは、信用や担保価値のレバレッジ効果を利用できるところです。レバレッジとは、他人資本(=借入)を利用して自己資本のリターン(=収益)に期待できることを指します。
たとえば、自己資本が1,000万円の法人が設備投資に500万円しかかけられない場合に、金融機関から700万円の借入をすることで、より大きな利益に期待できる1,200万円の投資ができるようになります。500万円の設備投資で得られる利益を200万円とした場合、借入をして1,200万円を設備投資に充てると、得られる利益が480万円まで伸びることに期待できます。つまり、借入によって約2.4倍のレバレッジが見込めるわけです。
デットファイナンスのデメリット
デットファイナンスでは、万が一返済ができなくなったときに備え、不動産などの担保や保証人が求められる場合があります。
さらに、デットファイナンスで負債が増加すると、貸借対照表の総資本に占める負債比率が拡大します。その結果、返済負担が大きくなるだけでなく、将来の融資の審査でも不利になってしまいます。
エクイティファイナンス|資本を増やして資金調達
エクイティファイナンス(Equity Finance)は、資本(=エクイティ)を増やして資金調達することを指します。「資本を増やす」とは、すなわち新株を発行することです。
エクイティファイナンスのメリット
エクイティファイナンスの最大のメリットは、この方法で調達した資金は返済義務がないということです。新株発行で集めた資金は自由に使うことができ、借入のように担保や保証人を求められることもありません。
エクイティファイナンスのデメリット
新株を発行すると一株あたりの価値が薄まるため、既存株主に対して合理的な説明を行い、理解を得なければなりません。また、株主の持分によっては投資家や投資企業に経営権を奪われるリスクもあります。
アセットファイナンス|資産を現金化して資金調達
アセットファイナンス(Asset Finance)は、資産(=アセット)を現金化して資金調達することです。おもな現金化の方法として、「債権の流動化」と「資産の流動化」の2つが挙げられます。「債権の流動化」は売掛債権や手形債権などの債権を売却して早期資金化することで、「資産の流動化」は不要資産を売却したり、リースに出したりして現金を得ることです。
アセットファイナンスのメリット
アセットファイナンスは、売掛債権や手形債権、不動産、知的財産権などさまざまな資産を早期に資金化できることです。担保や保証人が不要で、この方法で得た資金は返済義務がありません。
アセットファイナンスのデメリット
アセットファイナンスは、何らかの価値がある資産が手元になければ資金調達ができません。また、資産を現金化するにあたっては所定の手数料等がかかり、結果的に借入の金利よりも高い手数料を支払うことになります。
法人の資金調達①デットファイナンス
企業の負債を増やして手元資金を調達する、デットファイナンスの具体的なスキームをご紹介します。
日本政策金融公庫の融資制度|他の金融機関より遥かに低い金利
日本政策金融公庫は政府が100%出資する公的金融機関です。「株式会社」ではあるものの、雇用の促進や産業の発展、地方活性化、税収増加など、民間の金融機関とは異なる経営方針があります。また、経営が困難な状態にある事業者への運転資金の貸し付けや、感染症や災害等で売上が減少した企業への支援など、セーフティーネットとしての側面も持ち合わせています。
日本政策金融公庫には、利率や融資限度額が異なるさまざまな融資制度があります。たとえば、ほとんどの業種の中小企業が利用できる「一般貸付」は、運転資金として融資限度額4,800万円まで、返済期間最長5年、担保の有無によって異なる利率が適用されます。
日本政策金融公庫の融資制度は、審査に3週間~1ヶ月ほどの日数を要します。緊急性の高い資金ニーズの場合は、別の資金調達方法を検討する必要があります。
銀行のプロパー融資|比較的金利が低く高額融資も可能
銀行融資には、銀行が100%保証する「プロパー融資」と、後述する「信用保証付き融資」があります。
プロパー融資は低金利で高額融資を受けられる可能性がありますが、一定の信用力と会社規模、借入実績がないと利用できません。創業したばかりの会社や銀行と取引を開始したばかりの会社が、プロパー融資を勝ち取ることはほぼ不可能です。
審査に通過するためには、日本政策金融公庫や信用金庫、信用保証付き融資など、銀行のプロパー融資以外の金融商品で借入実績を積んでおくことが重要です。
信用保証付き融資|保証付きで銀行から融資が受けやすくなる
信用保証付き融資は信用保証協会という公的機関が事業者の保証人となり、銀行から受ける融資のことです。
信用保証協会は、中小企業が金融機関から事業資金の融資を受けるとき、あるいは資金調達を目的として私募債を発行するとき、保証人となって借入れを容易にする支援を行っています。
保証付き融資で借りたお金が返済できなくなった場合には、信用保証協会が返済を肩代わり(代位弁済)します。借入実績がなかったり返済能力にやや不安があったりする法人でも、信用保証協会の保証が付くと、銀行から融資を受けやすくなります。
保証限度額は無担保保証で最大8,000万円まで、有担保保証で最大2億8,000万円まで、保証割合は制度ごとに異なります。信用保証協会から保証を受ける法人はその対価として、融資の金利とは別に年率0.45%~1.90%の信用保証料を支払います。保証料は、1,000万円の融資を受けた場合に5万円~25万円程度です。
なお、法人は代表者のみが連帯保証人となる必要があります。
ビジネスローン|銀行融資より金利は高めだがスピード融資が可能
ビジネスローンは事業者ローンや商工ローンとも呼ばれ、中小企業の事業性のある目的に対して融資することです。事業性融資は銀行や日本政策金融公庫なども扱っていますが、ビジネスローンと言う場合は、おもにクレジットカード会社や消費者金融会社などの「ノンバンク」が取り扱っている無担保のローン商品を指します。
ノンバンクは銀行で融資を受けられなかった事業者の受け皿となっており、赤字や税金滞納があっても柔軟に審査してくれます。事業者の方の中にはノンバンクを敬遠される方も少なくありませんが、現在残っている業者は健全ない経営をしている優良企業ばかりで、問題となるような高金利、強引な取り立てもありません。
銀行融資に比べて金利こそ高いものの、スピード審査で最短即日の融資も可能です。緊急性を有する資金ニーズに対して柔軟に対応してくれるため、急ぎで資金調達が必要なときはノンバンクのビジネスローンを検討しましょう。
不動産担保ローン(ノンバンク)|柔軟審査かつ融資実行まで最短3日
不動産を担保とする事業性融資は、銀行をはじめとして多くの金融機関が取り扱っています。なかでも日本保証やアサックスなど、不動産担保ローンを専門的に取り扱うノンバンクは、担保不動産の価値を重視するとともに、融資実行が早いスピード対応を強みとしています。
銀行の不動産担保ローンは金利が比較的低く設定されていますが、審査基準が厳しく、融資実行までに時間がかかります。一方のノンバンクは銀行より金利が高めですが、審査基準が柔軟で、融資実行までの日数も短めです。
審査基準については、銀行よりノンバンクのほうが柔軟なことが多く、過去に銀行で断られた方や返済の延滞歴がある方でも、ノンバンクに相談すれば融資を受けられる可能性があります。さらに、担保不動産が「借地権がついている」「第二抵当以下である」など、銀行では断られるケースであっても、ノンバンクであれば「借地権者の承諾書を取得する」「担保掛目を下げる」といった条件付きで融資に期待できます。
銀行にするかノンバンクにするか、担保不動産の状況や資金ニーズを踏まえ、どこの金融機関に相談するか総合的に判断しましょう。
売掛債権担保ローン(ノンバンク)|担保不動産のない法人でも利用可
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資、ABL)は、「売掛債権」を担保にしたローンのことです。
売掛債権は「債権譲渡登記」という手続きを行うことで第三者に譲渡できるようになり、担保としての効力を発揮します。銀行からの借入が厳しい事業者の方でも、担保不動産や保証人に依存することなく、売掛債権を担保として融資が受けられます。
同じく売掛債権の信用力を活用した「ファクタリング」と混同されることも少なくありませんが、ファクタリングは売掛債権譲渡契約、売掛債権担保ローンは売掛債権を担保した金銭消費貸借契約です。万が一、担保に入れた売掛債権が回収不能となった場合、利用者に債権額の買い戻し義務が発生します。これを償還請求権ありの「ウィズリコース契約」と言います。
手形割引(ノンバンク)|手形の早期現金化スキーム
業種によっては手形を決済手段として利用している会社も少なくありません。手形は満期日まで待てば現金化できますが、今すぐ現金化したい場合は手形割引を利用しましょう。
手形割引は、手形を所有する企業(受取人)が、銀行やノンバンクの手形割引業者(引受人)に手形割引料を支払い、満期日前の手形を譲渡する代わりに現金を受け取るサービスです。審査では手形を振り出した取引先企業(振出人)の信用力が重視されるため、銀行融資に比べると比較的審査に通りやすくなっています。
手形割引料も都市銀行で1.5~3.0%、手形割引業者で2.5%~15.0%と、ビジネスローンに比べて低めの設定です。
ただし、引受人には償還請求権があります。万が一、振出人が支払えない状態になってしまった場合、受取人に手形を買い戻す義務が発生します。
少人数私募債|社債を活用した中小企業の投資資金の調達方法
企業がまとまった資金を調達する方法には、「社債」を活用するという選択肢もあります。社債とは会社が発行する債券のことで、債券とは金銭を企業に貸したことを証明する借用証書のことです。
社債を投資家に発行することで、企業はまとまった資金を調達できます。社債の償還期限になると、企業は投資家に対して元金を一括で返還します。金利の支払いは、償還期限までに定期的に支払う方法や、元金と一括で支払う方法などがあります。
規模の小さい中小企業は、「少人数私募債」という方法で社債を発行して金調達を行います。少人数私募債とは、49人(社)以下の投資家に対して発行できる社債のことです。社債を引き受けられる人は、発行会社の役員や社員、取引先、家族、ステークホルダーなど会社の関係者が中心となります。
少人数私募債で引受人を募るためには、引受人にとって旨味がある利率設定が重要です。ただし、金融機関からの借入と違って担保や保証人が不要で、発行にかかる手数料や手間も少ないため、発行コストを低く抑えることができます。
私募債には「元金を一括で投資家に償還する」という性質があることから、一時的な資金繰り改善ではなく、新しい事業への投資資金の調達を目的としています。
社内預金制度|会社と労働者の両方にメリットがある資金調達方法
社内預金制度とは、会社と労働者との間で労使協定を結び、労働者が会社に預金をする制度です。
会社は労働者からお金を預かることでまとまった資金を調達できる一方、労働者は利息を受け取ることができます。社内預金制度では年率0.5%以上の利息を付けることが義務付けられており、強制的に貯蓄をさせることはできません。
会社と労働者との間に信頼関係がなければ成り立たない資金調達方法ですが、社内預金制度を導入できればまとまった資金調達ができるだけでなく、労働者の就業意欲やモチベーションの高まりに期待できます。
個人からの借入|面倒な手続きが不要で融資を受けられる
金融機関から融資を受けるにあたっては、書類提出や審査などの手続きが必要です。提出する書類も決算書に限らず、試算表や資金繰り表、事業計画書などが求められることもあります。
一方で、友人や知人、親族など経営者個人と関係のある人から資金を借りる場合は、金融機関からの借入のような面倒な手続きを省略できます。
ただし、近しい間柄の人から資金を借りると、金銭トラブルに発展することも少なくありません。個人から借り入れをするときは口約束で済ませるのではなく、借用書を作成して、期日までに確実に返済を行うようにしましょう。
法人の資金調達②エクイティファイナンス
企業の資本を増やして手元資金を調達する、エクイティファイナンスの具体的なスキームをご紹介します。
エンジェル投資家|個人投資家から返済不要の資金調達
エンジェル投資家とは、起業家やスタートアップ企業などへ投資をする個人投資家のことです。
創業前の起業家、あるいは創業間もないスタートアップ企業は、どれだけ魅力的な事業計画や事業内容であっても、融資を受けるための実績がなければ審査に通らないことも少なくありません。
エンジェル投資家は元起業家や経営者が多く、将来的に成長が期待できる起業家・経営者への支援を大きなモチベーションとしています。事業の実績がなくとも、事業計画書や事業内容、起業家・経営者への共感がきっかけとなり、エンジェル投資家から出資が受けられる可能性があります。
エンジェル投資家から提供された資金は返済不要で、元起業家・経営者としてビジネスに関するアドバイスを受けられます。最近では日本でもエンジェル投資家に注目が集まっており、起業家と投資家をつなぐマッチングサイトが登場しています。また、SNSでのメッセージをきっかけに資金調達に成功したという事例も見られます。
ただし、エンジェル投資家と知り合い、出資を受けるまでには半年から数年の時間がかかります。資金提供を受けるまでには、他の融資でつなぎ資金を調達することも検討する必要があるでしょう。
ベンチャーキャピタル|数千万円~数億円の返済不要の資金調達が可能
ベンチャーキャピタルとは、将来的に成長が見込まれるベンチャー企業に対して資金提供と経営支援を行う組織のことです。エンジェル投資家と違い、ベンチャーキャピタルは営利を目的としているため、上場後に株式を売却、もしくは事業を売却することで発生するキャピタルゲインが見込めない企業への出資は行いません。
ベンチャーキャピタルから出資を受けることができれば、数億円の資金調達も可能です。たとえ事業に失敗したとしても、融資のように返済リスクもありません。
さらに、ベンチャーキャピタルは出資先に経営者を送り込み、直接経営に深く関与することもあります。この手法を「ハンズオン」と言います。ベンチャーキャピタルの経営ノウハウを得ることで、事業を正しい方向に成長させることができますが、ときには経営方針を争ってベンチャーキャピタルの担当者と経営者との間で摩擦が生じることもあります。
新株予約権(ストックオプション)|資金調達と人材採用を目的としたスキーム
新株予約権(ストックオプション)とは、株式会社の従業員や取締役が、あらかじめ設定した価格で自社の新株を購入できる権利のことです。
新株を購入した従業員や取締役は、会社の株価が上昇した時点でストックオプションの権利を行使して、優遇された価額で定められた数量の新株を取得、売却することができます。社員は会社の株価が上がれば上がるほど大きな売却益が得られるため、仕事へのモチベーションが高まります。
会社側にとっては、まとまった資金を得られるだけでなく、新株を購入した社員の会社に対する貢献度アップに期待できます。さらに、ストックオプションによって利益が得られることを社外にアピールして、人材採用に利用する会社も増えています。
ストックオプションは社債と一緒に発行(新株予約権付社債)したり、金融機関からの借入に利用したりすることも可能です。
クラウドファンディング|資金調達に併せてマーケティングもできる
クラウドファンディングは、「こんな商品やサービスを開発したい」「世の中の問題をこうして良くしたい」といったアイデアを持つ企業が、インターネットを通じて起案者としてアイデアを公開、共感してくれた個人がファンとして出資してくれる資金調達方法です。
法人のポピュラーな資金調達方法である融資と比べて手軽で拡散性も高く、さらにテストマーケティングにも使える有用性を持ち合わせています。
クラウドファンディングでは、はじめにアイデアを公開するプラットフォームを選びます。プラットフォームの審査に通過したら、企画内容、目標金額、募集期間を公表してプロジェクトが開始されます。期間内に目標金額以上の出資が集まったらプロジェクト成功です。
クラウドファンディングによる資金調達の仕組みは、「成功時実施型」と「実施確約型」の2種類があります。成功時実施型は、オール・オア・ナッシング(All of Nothing)とも呼ばれ、プロジェクトの募集期間内に目標額を達成した場合にのみ全額受け取ることができます。目標額を達成できなかった場合は資金を受け取ることができず、全額出資者に返金となります。クラウドファンディングでは、成功時実施型がもっとも一般的な資金調達の仕組みです。
一方の実施確約型は、募集期間内に目標額を達成できなくても、集まった資金を全額受け取ることができます。クラウドファンディングのプラットフォームによっては、実質確約型を選択するための条件が設定されていたり、成功時実施型よりも手数料が高かかったりします。
株式譲渡・事業譲渡|活発になりつつある中小企業のM&A
最近では中小企業のM&Aが活発になりつつあり、なかでも株式譲渡や事業譲渡は有効な資金調達方法となり得ます。
株式譲渡は既存の株主の株式を購入希望の企業に売却して、経営参加をしてもらうM&Aのスキームです。おもにオーナー企業や社長が、会社の株式の大部分を所有している場合に用いられます。
株の売却益はあくまでも株を売却した社長個人に入るため、会社の資金とするためには、社長からの借入や社債発行という手続きを踏む必要があります。また株式の一部を譲渡するということは、社長の経営権が小さくなるということに他なりません。
事業譲渡は会社の事業を譲渡して資金調達するM&Aのスキームです。譲渡する事業は利益が出ていて、譲渡後のシナジー効果に期待できなければなかなか買い手がつきません。一方、現状では利益を生み出していなくても、将来性が期待できる独自技術や特許には買い手がつく可能性もあります。
事業譲渡の注意点として、利益が出ている事業を譲渡することで一時的に月次の利益が減少してしまいます。
IPO(新規株式公開)|企業が上場することによる資金調達方法
新規株式公開とは、非上場・未公開の企業が自社の株式を証券取引所に上場させることを指します。株式公開にあたっては、資金調達を目的とした新株発行や、既存の株主が保有している株式などの売却が行われます。企業は大規模な資金調達ができる一方、一般の投資家はその企業の株式を保有して、証券取引所で自由に売買ができるようになります。
さらに、上場は企業に大規模な資金をもたらすだけでなく、メディア等で取り上げられて知名度が飛躍的に高まったり、銀行や金融機関からの評価がアップしたりするメリットもあります。
ただし、新規株式公開は株式公開の準備も手間もコストもかかります。大規模な資金調達ができる一方、上場し続けるための維持費用や管理コストの負担も続きます。
法人の資金調達③アセットファイナンス
企業の資産を現金化して手元資金を調達する、アセットファイナンスの具体的なスキームをご紹介します。
ファクタリング|売掛債権を活用した「借金にならない」資金調達
ファクタリングとは、企業が保有する入金前の売掛債権(売掛金)を、ファクタリング会社が所定の手数料を差し引いて買い取り、入金日より前に資金化するサービスです。通常、商品やサービスを納入してから1~2ヶ月後になる代金の支払いを、その期日よりも早く回収して事業資金として活用できます。
ファクタリングでは売掛債権を買い取るにあたって審査が実施されます。融資のように申込者の信用力でお金を借りるスキームではないため、買取対象の売掛債権の性質や売掛先の信用力が重視されます。金融機関から信用状況や経営状況を理由に融資を断られている企業でも、優良な売掛先の売掛債権があればファクタリングで資金調達ができます。
さらに、ファクタリング会社に売却した売掛債権が回収不能となっても、利用者に買い戻し義務が発生しません。これを償還請求権なしの「ノンリコース」契約といいます。
ファクタリングには、売掛先の同意が不要で最短即日の資金調達が可能な2社間ファクタリング、売掛先の同意が必須で現金化までに時間はかかるものの、手数料が低めの3社間ファクタリングがあります。売掛先との関係や資金調達の緊急性などを考慮して、自社に適したファクタリングを選びましょう。
リースバック|資産を売却して資金調達後も賃貸する
リースバックとは、事業用の資産(おもに不動産)をリース会社が買い取り、売却後もリース契約をして、リース料を支払いながら今までと同じように使い続けることができるサービスのことです。
従来の事業用の資産を利用した資金調達方法は、完全に売却するか、担保に入れて不動産担保ローンを借りるかの二択でした。リースバックは資産を売却した後も、賃貸する形で使い続けることができます。さらに、資産のオフバランス効果(バランスシートの資産の部をスリム化する)によって自己資本比率が向上、銀行融資の審査でも有利に働きます。
リースバックにおけるリース料(賃料)は、おおむね「売却価格×6~13%÷12ヶ月」で計算されます。売却価格が1,000万円の場合の1ヶ月の賃料は、1000万円×8~12%=6.7万円~10万円がめやすです。
さらに、資産を売却してリース契約を結んだ後に、売却資産を再度購入して手元に戻すこともできます。資金繰りが改善してもう一度売却した資産を自社の手元に戻したい場合には、リース会社に再購入を対応してもらえるのです。
企業向けのリースバックは不動産に限らず、車両や機械、OA機などの商業用設備、工作機械など多岐にわたる物件が対象となります。
資産・在庫の売却|もっとも手軽で最初に試したい資金調達
不要な資産や在庫があれば、すみやかに売却して資金化しましょう。売却できる資産には、 土地や建物といった不動産のほか、工場内の機械やOA機器など多岐にわたります。
事業に活用していない資産を遊休資産と言います。遊休資産を所有し続けると、管理費や固定資産税などさまざまなコストがかかります。使わないのにコストがかさむくらいなら、資金調達の目的で売却することをおすすめします。
さらに、在庫は金銭的・人的コストが発生するため「負債」という捉え方もあるほどです。利益が見込める適正な在庫であれば保有していても問題ありませんが、過剰に在庫を持っている状態は毎月のように無駄なコストが発生します。
利益が出ない在庫はたたき売りしなければならないケースもありますが、今後も無駄なコストが発生することを避けるには、無駄な在庫を売却して適正な在庫数に戻すべきです。
なお、余分な資産や在庫を減らしたことで自己資本比率が高くなれば、銀行からの印象も良くなり、銀行融資の審査で有利になります。
助成金・補助金|国や自治体からもらえる返済不要の資金
助成金・補助金は、国や自治体が一定の要件を満たした事業者に支給する返済不要のお金です。受給したお金は融資と違って返済義務がなく、また投資と違って投資家に対するリターンもありません。会社の業績や信用にかかわらず申請できるため、事業資金の調達に助成金・補助金を積極的に活用していきましょう。
助成金はおもに雇用に関する支援、補助金は事業展開・拡大を支援する制度です。いずれも申請するにあたって受給要件を満足している必要があり、補助金は事前の審査と事後の検査で補助の可否や補助金額が決まります。また最近では、助成金でも事前に審査が行われる場合があります。
受給するまでに越えるべきハードルがいくつかありますが、支給が決定すれば数十万円~数千万円の返済不要な資金が手に入ります。たとえば、2017年に成立したIT導入補助金制度は申請手続きが比較的容易ながら、生産性向上に寄与するITツール導入にかかった費用が最大450万円まで補助されます。
ただし、助成金・補助金ともに要件である取り組みを進めるための経費を先に支払う必要があります。また受給まで時間がかかる点もデメリットとして挙げられます。制度によっては申請から1年~1年半が経過してようやく取得できるものもあります。支給が実行される前に資金繰りを悪化させないためにも、金融機関からの借入やファクタリング等も検討することをおすすめします。
法人が資金調達を有利に進めるコツ
法人が資金調達を有利に進めるには、普段から以下のような方法で準備をしておく必要があります。
資金繰り表を作成・管理する
倒産してしまった会社のなかには、「もっと早く手を打っていれば倒産を回避できたのに」というケースが少なくありません。
経営者が自社の資金繰りの管理をしていない会社ほど、資金繰りが悪化したときの動きが鈍い傾向にあります。経営のトップが資金繰りを把握していないと、気づいたときにはすでに手遅れの状態になってしまいます。
資金調達が必要なタイミングで適切に対応するには、資金繰り表を作成して、日頃から自社のお金の流れを管理することが大切です。経営者自身が自社の資金繰り表を把握していれば、資金繰り悪化の兆候を早期に発見して、具体的な対策を講じることができます。
さらに、金融機関の融資の審査では資金繰り表の提出が求められることもあります。資金繰り表を作っていないということは、それだけでもマイナス要素と見られてしまうため、経営者自身で作成・管理するようにしましょう。
資金繰り表の作り方やテンプレートについては、こちらの記事をご参考ください。
複数の金融機関と取引実績を積む
業績不振に陥った中小企業にとって、取引金融機関が1社しかない場合には、その金融機関から支援を受けられなければ、他の金融機関から新たな資金調達をすることがきわめて困難になります。そのリスクを軽減するためには、2社以上の金融機関との取引が有効です。
さらに、企業が業績好調になると、取引金融機関は「正常先」として格付けをします。格付けが正常先になるということは、金融機関にとって「何としてでも融資を受けてもらいたい相手」として認められることに他なりません。そこで複数の金融機関と取引があれば、各金融機関は他行よりも低い金利での融資を提案してくるため、企業は有利な条件で融資が受けられます。
ただし、取引金融機関が1社だけでも、長期的に良好な関係を築けている場合は、あえて取引金融機関を増やす必要はありません。
税理士に資金調達先を紹介してもらう
資金調達に強い税理士との取引がある場合は、資金調達についてもアドバイスが得られるでしょう。自社の経営状況や資金ニーズに最適な資金調達方法や、付き合いのある金融機関を紹介してくれるので、自身で探す手間が省けます。
さらに、資金調達の手段によっては決算書や事業計画書、資金繰り表などの提出が必要となることがあります。税理士に依頼すれば、資金調達をする上で必要な書類作成のサポートを受けることができます。
とりわけ融資においては、税理士が決算書や事業計画書のサポートを行うことで、融資先の信頼度も高まり、資金調達の成功率が高まるというメリットもあります。
商工会や商工会議所で経営指導を受ける
商工会や商工会議所を利用するメリットの1つに、融資の相談ができることが挙げられます。
とくに金利が低い日本政策金融公庫での融資を検討している方にとって、窓口の役割を果たすのが商工会や商工会議所です。無担保・無保証人で最大1,500万円までの融資が受けられる「マル経融資(小規模事業者経営改善資金)」は、「商工会や商工会議所の経営指導を受けていること」が条件となります。
資金調達以外にも、商工会や商工会議所では、税金や経理、法律など経営にかかわるあらゆることに専門家が無料で相談に応じています。勉強会の開催や中小企業診断士による無料経営診断なども利用できます。
法人の資金調達に関するQ&A
法人の資金調達に関して、よくある質問とその回答をQ&Aにまとめました。
- Q.デットファイナンスとエクイティファイナンスを使い分ける方法を教えて下さい。
- A.デットファイナンスで調達した資金には返済義務がありますが、エクイティ・ファイナンスで調達した資金は返済不要です。借りたお金の返済が難しい場合や、担保を用意できない場合は、エクイティファイナンスによる資金調達が適しているでしょう。一方、第三者に経営に関与されたくない場合や、借りたお金を返済していける見込みがある場合は、デットファイナンスでの資金調達を考えるのが良いといえます。なお、債権や在庫など現金化できる資産がある場合は、アセットファイナンスによる資金調達も検討してみましょう。
>>「資金調達の3分類」について詳しく見る
- Q.3日以内に資金調達が必要なとき、どのようなスキームを選ぶべきですか?
- A.ビジネスローンかファクタリングがおすすめです。いずれも資金調達までの金銭的コスト(金利・手数料)は銀行融資や日本政策金融公庫の融資制度より高めですが、新規の申し込みでも最短即日の資金調達ができます。短期間で借入金を返済できる目処が立っている場合はビジネスローンを、借入金の返済の見込みは立たないが売却可能な売掛債権がある場合はファクタリングを選びましょう。
>>「ファクタリング」について詳しく見る
- Q.業績不振を理由に銀行融資が止まったのですが、将来的に再開させるためには、どのような資金調達方法を選ぶべきですか?
- A.銀行融資の再開を目指すのであれば、ノンバンクからの借入は控えましょう。銀行はノンバンクから借入をしている企業を「貸し倒れリスクが高い」と見なすからです。銀行からの評価を高めるためには、「余剰金を増やす」「融資判断で重視される自己資本比率を高める」の2つがあります。余剰金を増やすことは用意ではありませんが、自己資本比率の向上は純資産を圧縮するアセットファイナンスの利用が有効です。
>>「アセットファイナンスに属するスキーム」について詳しく見る
法人の資金調達方法はさまざま
会社を経営していくには、然るべきタイミングでまとまった資金が必要になります。しかし、中小企業の経営者の多くは、銀行融資とビジネスローンぐらいしか思いつかないという方も少なくありません。本記事で取り上げたように、法人向けの資金調達にはさまざまなスキームが存在します。
資金調達には複数の選択肢を用意しておくことが大切です。そうすることによって、創業間もないときは日本政策金融公庫の創業融資やエンジェル投資家からの出資、急ぎで資金が必要なときはファクタリングやビジネスローンなど、経営状況や資金ニーズに合わせた最善のスキームを選ぶことができるからです。
本記事で取り上げたスキームを含め、最適な資金調達を選択できれば、倒産のリスクや資金繰りの苦労を大きく減らすことができます。