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将来債権ファクタリングは複数月にまたいで売掛債権を買い取る新しいサービスです。
従来のファクタリングサービスと比較したメリットや活用方法をご紹介します。
こんにちは、ベストファクターの四ツ柳と申します。
2020年4月1日に施行された民法の一部を改正する法律(改正民法)では、将来債権の譲渡が明文化されます。
これにより、さまざまな金融機関が将来債権を活用したサービスを提供することが予想され、ファクタリングも例外ではありません。
現在も少数ながら将来債権を活用したファクタリングサービスを提供している業者はありますが、今後はより活発化することが予想されます。
今回は将来債権の基本的な知識の解説、また将来債権を活用したファクタリングで債権譲渡による資金調達方法がどのように変わっていくのかを考えていきたいと思います。
記事の目次
売掛債権の3つの種類
売掛債権とは売上によって生じた債権ですが、発生のタイミングや種類によって次の3つの債権があります。
将来債権は他の売掛債権と比較することでよりイメージしやすくなります。
将来債権の3つの種類について詳しく解説していきます。
確定債権
確定債権とは、すでに商品やサービスを納品済みで売上を計上し、入金額や入金日が確定している債権です。
販売先に対して請求書を発行している状態で、売掛金として会計処理もおこなっています。
いわゆる一般のファクタリングで売却される債権は確定債権となります。
なお、商品等を納品後でも返品や修繕などを求められる可能性があるものについては、確定債権とはなりません。
将来債権
将来債権とは取引先と継続的な取引があり、将来も反復継続的に発生が見込まれる債権です。
また、商品やサービスを提供していないものの、提供する予定や見込みがあるものは将来債権の該当します。
例えば、取引先A社に対して20万円の商品を毎月末に1年間にわたって納品する契約の場合、納品前であっても20万円×12ヶ月=240万円の将来債権が認められます。
このように、納品前であっても発生することが確実視されて見込まれるものは将来債権とみなすことが可能です。
仕掛債権
仕掛債権とは受注があったものの、発注元に対して納品が完了していない債権です。
注文書には、金額や納品日や入金日の記載があっても、まだ納品が完了していないので、確定債権にはなりません。
しかし注文を受けた分を納品すれば、債権が発生するため、仕掛債権となります。
仕掛債権を売却して資金化する方法を注文書ファクタリングといいます。
注文書ファクタリングでは受注を受けた際に発注元企業から発行される注文書を仕掛債権とみなして売却が可能です。
仕入や製造などに取り掛かる前から対応した運転資金を調達できるので、手元に運転資金がないときでも大口の受注を受けられる点がメリットです。
将来債権とは
将来債権とは、文字通り将来的に発生が見込まれる債権のことを指しています。
商品やサービスを取引先に納品する場合、前払いや現金払いとなることは稀で、代金の支払いは翌月、翌々月となることが一般的です。この代金の支払いを受けることができる権利を「債権(売掛債権、売上債権)」と言います。
つまり、取引先との長期にわたる取引履歴があり、今後も毎月発生すると見込まれる債権が将来債権なのです。
民法における将来債権の譲渡
将来債権を譲渡することの可否について、現行の民法では明文化されていません。
もっとも、実務上では将来発生することが見込まれる債権を担保とした融資を目的として、将来債権の譲渡等は行われていました。
2020年4月1日に施行された改正民法では、将来債権の譲渡(担保設定)が可能であることが明文化されることとなります。
第466条の6
1.債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
2.債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。
「その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。」ということは将来発生する見込みの債権も譲渡できるという意味です。
また、2項では「将来債権の譲渡を受けた人は、債権が発生した場合にその債権取得できる」という意味の説明があります。
民法改正によって将来債権の譲渡が明文化されたので、ファクタリング業者の中にも、徐々に将来債権を活用した資金調達や資金繰り改善の提案が浸透しつつあります。
改正民法に明文化されたことにより、今後は将来債権を活用したサービスが次々に登場してくることが考えられます。
将来債権譲渡の対抗要件
将来債権はまだ発生していない債権ですので、悪意を持ってすでに譲渡した将来債権を別のファクタリング会社等に譲渡してしまう可能性があります。
この場合、「すでに当社が譲渡を受けたものだ」と主張できることを、対抗要件といいます。
将来債権の対抗要件は次の2点です。
- 売掛先に対する通知
- 売掛先からの承諾
これは確定債権を譲渡した際と同じです。
事前に売掛先に対して通知や承諾を得られれば、第3者に対して対抗できます。
つまり、3社間ファクタリングであれば、対抗要件を得られるので、ファクタリング会社のリスクは大幅に軽減できます。
なお、将来債権も債権譲渡登記をおこなうことができるので、売掛先企業への通知や承諾を得ることが難しい場合には、2社間ファクタリングによって債権譲渡登記をおこなうことで対抗要件を具備できます。
・登記することにより、当該債権の債務者以外の第三者について、民法第467条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなされ、第三者対抗要件が具備されます。
・ 登記することができる債権の譲渡人は、法人のみに限定されています。
・ 譲渡に係る債権は、金銭の支払を目的とするものであって、民法第三編第一章第四節の規定により譲渡されるものに限定されています。
・ 債務者が特定していない将来債権も登記することができます。
・ 債権譲渡登記がされた場合において、譲渡人若しくは譲受人が当該債権の債務者に登記事項証明書を交付して通知をし、又は債務者が承諾をしたときは、債務者についても確定日付のある証書による通知があったものとみなされ、対抗要件が具備されます。
引用:法務省|債権譲渡登記制度の概要
将来債権のファクタリングの取り扱いをおこなっているファクタリング会社はほとんどありませんが、将来債権ファクタリングはある程度遠い将来に発生する債権を買い取るファクタリング会社にとってはリスクの高い取引です。
そのため、対抗要件を具備するために3社間ファクタリングによって取り扱われるか、2社間ファクタリングで債権譲渡登記をおこなうのかのいずれかであることが予想されます。
債権譲渡登記は法人しか利用できないので、個人事業主が将来債権ファクタリングを利用することは難しい可能性があります。
将来債権ファクタリング
将来発生が見込まれる債権を買取対象とする「将来債権ファクタリング」を取り扱うファクタリグ業者が登場しています。
将来債権ファクタリングでは、現在発生している売掛債権に加え、将来発生することが見込まれる売掛債権も買取対象となります。
たとえば、向こう3ヶ月にわたって毎月300万円の売掛債権の発生が見込まれる場合、1ヶ月後の発生済み債権から100万円、2ヶ月後の将来債権から100万円、3ヶ月後の将来債権からも100万円を買い取ることができます。
ただし、買取上限額は既に発生している売掛金の額となるため、上記の例では発生済み債権の300万円が買取上限額となります。
将来にわたって発生する見込みの債権を売却できるので、将来債権ファクタリングは高額の資金調達が可能です。
将来債権ファクタリングは売掛金の分割支払が可能
将来債権ファクタリングの最大のメリットは、ファクタリング業者に支払う売掛金を分割できることです。
ファクタリング業者が1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後の売掛債権からそれぞれ100万円ずつ、合計300万円の売掛債権を買い取った場合、売掛金の支払いは、債権が履行されたタイミングとなります。
つまり、300万円を毎月100万円ずつ3回払いするということになるため、ファクタリング利用会社の支払いの負担が軽減されます。
受け取るときには一度にこの先数ヶ月分の将来債権の代金を受け取り、ファクタリング会社への支払いは分割ですので、入金は大きく、出金は少しずつという資金繰りには最もプラスの流れでお金が動くのが特徴です。
これによって将来債権ファクタリングは資金繰り改善効果がかなり大きいといえます。
将来債権ファクタリングの必要書類
将来債権ファクタリングを利用するためには、ファクタリング利用会社(利用者)が数年単位で売掛先と継続した取引を行っていて、なおかつ今後も債権が滞りなく履行されるということを証明しなければなりません。
「今後も債権が滞りなく履行されることの証明」として、次の書類をファクタリング業者に提出します。
- 本人確認書類
- 請求書
- 銀行通帳など取引入金の履歴が確認ができる書類
- 決算書、損益計算書等
- 取引先企業との取引基本契約書
過去にファクタリングを利用されたことのある方であればお気づきかもしれませんが、基本的に将来ファクタリングも通常のファクタリングと必要書類は同じです。
なおファクタリング業者によって必要書類は異なりますが、将来債権ファクタリングの場合は特に取引先企業との取引基本契約書が重視される可能性があります。
毎月継続的に取引をおこなう場合、取引基本契約書には「毎月〇〇日に商品⚫️⚫️個を納品」などと明記されている場合があり、この記述があるのであればリスクの低い将来債権と見做せるためです。
将来債権ファクタリングを利用するには比較的厳しい要件を満たす必要はありますが、通常のファクタリングよりも有利な条件で利用できることは間違いありません。
通常のファクタリングとの比較
確定債権を売却する通常のファクタリングと将来債権ファクタリングには次のような違いがあります。
確定債権のファクタリング | 将来債権ファクタリング | |
---|---|---|
売却する債権 | 納品済みですでに発生している確定債権 | 将来にわたって発生することが見込まれる納品前の将来債権 |
調達可能額 | 手元の請求書の金額 請求書1ヶ月分 |
将来発生する見込みの債権 請求書数ヶ月分 |
ファクタリング会社への支払方法 | 一括 | 分割 |
手数料 | 2社間ファクタリング:5%〜20%程度 3社間ファクタリング:1%〜8%程度 |
確定債権のファクタリングよりも高い |
将来債権ファクタリングと通常のファクタリングのサービスの違いを、翌月末に入金される予定の売掛債権300万円を売買するケースで比較してみましょう。
通常のファクタリングは、翌月以降に支払いが予定されている債権の前倒しですので、既に発生している売掛債権が買取対象となります。
たとえ売掛先と長年にわたって良好な取引を継続していて、将来的に債権が発生することが見込まれても、未発生の債権を現金化することはできません。
売掛債権を売却して資金を調達後、売掛先から期日通りに売掛金が入金されたら、ファクタリング会社に300万円を一括で支払います。
一方、将来債権ファクタリングは、現在発生している売掛債権に加え、将来的に発生することが見込まれる売掛債権も買取対象となるため、1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後の売掛債権からそれぞれ100万円ずつ買い取るということもできます。
将来債権から買い取った分の支払いは、債権が履行されたタイミングとなります。
つまり、1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後とファクタリング会社への売掛金の支払いが100万円ずつ分割される形となるため、通常のファクタリングの一括支払いと比べ、キャッシュフローへの負担が軽くなるのです。
将来債権ファクタリングで1回の支払いの負担が軽くなることで、よりキャッシュフローの改善に向けた事業運営が可能となります。
将来発生する見込みの債権を売却するというファクタリング会社にとっては確定債権を買い取るよりもリスクの高い方法なので、確定債権のファクタリングよりも審査が厳しくなり、手数料も高くなる傾向があります。
また、確定債権のファクタリングは最短即日が可能ですが、将来債権のファクタリングは審査に時間がかかることがあるでしょう。
将来債権をファクタリングするメリット
将来債権をファクタリングすることには次のようなメリットがあります。
- まとまった資金調達ができる
- 資金繰りに活用できる
- 手元に請求書がなくても資金調達できる
- 売上悪化時に活用できる
- 分割払いで支払える
将来債権をファクタリングすれば通常のファクタリングよりもより多くの資金を調達できます。
将来債権ファクタリングの5つのメリットについて詳しく解説していきます。
まとまった資金調達ができる
将来債権ファクタリングは確定債権や仕掛債権をファクタリングする場合よりも多くの資金を調達できます。
確定債権ファクタリングは納品完了後の債権、仕掛債権は受注を受けて納品前の債権を売却する行為です。基本的には1つの取引先に対する1ヶ月分の売上相当額しか調達できません。
一方、将来債権ファクタリングは将来のわたる売上を調達できるので、この先数ヶ月分の売上相当分の調達が可能です。
毎月、取引先A社に対して100万円ずつ商品を販売している場合、確定債権ファクタリングと将来債権ファクタリングでは100万円から手数料を控除した金額を調達できます。
一方、将来債権ファクタリングでこの先3ヶ月分の将来債権を売却する場合は、100万円×3ヶ月=300万円から手数料を控除した金額を受け取れるので、将来債権ファクタリングの方がより多くの資金調達が可能です。
ファクタリングには「調達可能額が少ない」というデメリットがありますが、将来債権ファクタリングであれば確定債権や仕掛債権を売却するより高額の資金調達ができます。
資金繰りに活用できる
将来債権ファクタリングは高額な資金調達ができること、この先数ヶ月分の売上相当額を受け取れることなどから資金繰りに活用できます。
確定債権や仕掛債権を売却するよりも多くの資金を受け取れるので、手元に資金が潤沢になり資金繰りをより円滑化させやすくなります。
そして、支払いは債権が発生した都度、分割でおこなうことができるので、通常のファクタリングよりも手元から資金が流出するタイミングも遅くなります。
資金繰り改善のポイントは1日でも長く資金を手元に置いておくことです。
将来にわたる売上を早期から手元も確保でき、支払いは分割でおこなうことができる将来債権ファクタリングは、確定債権ファクタリングや仕掛債権ファクタリングよりも資金繰り改善効果が大きいといえます。
手元に請求書がなくても資金調達できる
将来債権ファクタリングは、確定債権ファクタリングで売却できる請求書や仕掛債権で売却できる注文書などが手元にない場合も資金調達が可能です。
将来債権ファクタリングは「将来発生することが確実視される」と判断されるような継続的な取引先があれば、それが債権と判断され、譲渡によって資金調達できるためです。
つまり、請求書や注文書をファクタリングで売却しても、なお資金が不足する場合でも、将来債権ファクタリングを利用すれば資金調達できる可能性があるのです。
融資・請求書ファクタリング・注文書ファクタリングなどの方法では調達金額が不足する場合や、手元に売却できる請求書・注文書がない場合でも資金調達できる方法として、将来債権ファクタリングは重宝します。
売上悪化時に活用できる
将来債権ファクタリングは売上が一時的に悪化した先に活用できます。
売上が一時的に悪化したとしても、将来にわたって安定的な売上が確保できると判断されれば、将来債権として高額の見積もりができ、まとまった資金調達ができる可能性があります。
売上が悪化した際に、将来債権ファクタリングでまとまった資金調達ができれば資金繰りは大幅に円滑になるでしょう。
確定債権ファクタリングの場合は、売上悪化時には少ない金額の請求書しかないので、高額な資金調達ができません。
しかし将来債権ファクタリングの場合には売上が悪化しても高額な資金調達ができる可能性があります。
売上悪化時には資金調達方法が限られていますが、将来債権ファクタリングを利用すれば希望する金額を調達できる可能性があります。
分割払いで支払える
将来債権ファクタリングは、将来の数ヶ月にわたって発生すると見込まれる将来債権の金額をまとまって調達する方法です。
そのため、ファクタリング会社に対して分割で代金を支払っていきます。
例えば取引先A社に対して毎月100万円の売上が継続的にある企業が、この将来債権のうち1月〜3月の3ヶ月分300万円を将来債権ファクタリングで調達した場合、ファクタリング会社への支払いは1月分の入金時、2月分の入金時、3月分の入金時というように、売掛債権が入金になったタイミングで分割しておこないます。
ファクタリングは期日に一括で支払うのが原則です。
分割で返済する行為は貸付行為に該当するので、貸金業者登録をおこなっていないファクタリング会社は分割での返済を受けられません。
しかし将来債権ファクタリングの場合、入金になった都度、ファクタリング会社への支払いをおこなうので、結果的に分割での支払いができるようになります。
まとまったお金を一度に受け取り、支払いは分割ですので、確定債権や仕掛債権のファクタリングよりも資金繰り改善効果が大きくなります。
将来債権をファクタリングするデメリット
将来債権は手元に請求書がなくても資金調達でき、高額な資金繰りができますが、次のような点に注意が必要になります。
- 通常のファクタリングよりも手数料が割高
- 審査が厳しい
- 利用できる業者が少ない
- 長期的には資金繰りが悪化する可能性がある
まだまだ取り扱っている業者が少ないので、厳しい審査が行われ、手数料も高額になる点に注意しましょう。
将来債権ファクタリングの4つのデメリットについて解説していきます。
通常のファクタリングよりも手数料が割高
将来債権ファクタリングは通常のファクタリングよりも手数料が割高です。
ファクタリングの手数料は売掛債権が未回収になるリスクに応じて決定します。
リスクが高ければ高いと判断するほど手数料も高額になります。
将来債権は、まだ発生していない債権ですので、確定債権よりもリスクが高い債権です。
確定債権の「売掛先企業の経営悪化によって売掛債権が未回収になる」というリスクに加え、そもそも売上自体が発生しない可能性が加わるためです。
ファクタリング会社にとってリスクが高いので、基本的には確定債権のファクタリングよりも手数料が高くなると理解しておきましょう。
業者によって異なるものの、通常の請求書ファクタリング(確定債権ファクタリング)よりも2割程度手数料は高くなると理解しておきましょう。
審査が厳しい
将来債権ファクタリングは確定債権ファクタリングよりも厳しい視点で審査がおこなわれます。
- 将来にわたって売掛先企業が代金を支払う能力があるか
- 本当に注文が継続するか
- 利用者が受注を期日通りにこなせるか
将来債権ファクタリングは通常のファクタリングにこれらのリスクが加わります。
そのため将来債権ファクタリングは通常のファクタリングよりも厳しい審査がおこなわれます。
売掛先企業の業況に問題なく、一定以上の規模であることはもちろんですが、それなりの取引歴があり、利用者の業況にも大きな問題がない状態でなければ審査通過は簡単ではないでしょう。
利用できる業者が少ない
将来債権ファクタリングは取り扱っている業者が非常に少ないのが実情です。
そもそも2020年の民法改正で初めて譲渡できるようになった債権ですし、将来にわたって発生する見込みがある債権なので、ファクタリング会社にとっては回収が非常に不確定な債権です。
リスクが高く、ノウハウが蓄積されていないので、今のところ積極的にファクタリングに応じてくれる業者は多くありません。
それよりも簡単な審査で人手をかけずに取り扱いができる確定債権を買い取っていた方がファクタリング会社にとってはリスクが低いのです。
家賃収入や医療報酬など、入金される予定がかなり高いと判断できる将来債権を買い取っている業者はありますが、通常の売掛金を将来債権として買い取っている業者はまだまだ非常に少ないのが実情です。
業者間の競争が働かない分野である点も、手数料が高くなる大きな理由の1つだといえます。
長期的には資金繰りが悪化する可能性がある
将来債権ファクタリングを利用することで長期的に資金繰りが悪化する可能性があるという点には注意しなければなりません。
将来債権ファクタリングは、将来の数ヶ月先に入金になる予定の売上を前倒しで受け取る方法ですが、これは将来の数ヶ月先まで、本来であれば入金になる予定の代金が入金にならないということでもあるためです。
そのため、調達したお金を使い切ってしまったら、入金がないこととファクタリング会社への支払いによってさらに資金繰りが苦しくなる可能性があります。
将来債権ファクタリングを利用する際には、手元に資金がある間に銀行から長期借入金を借りたり、資産を売却するなどして、長期的に資金繰りを改善させる方法も検討しておきましょう。
将来債権ファクタリング利用の流れ
将来債権ファクタリングの利用の流れはファクタリング会社への支払い以外は通常のファクタリングと大きくは変わりません。
基本的には次のような流れで利用していくと考えられます。
月100万円分の将来債権3ヶ月(1月末〜3月末に支払い)300万円を将来債権ファクタリングで、手数料20%で調達した。
- ファクタリング会社へ申し込み
- ファクタリング会社の審査で手数料等の条件が決定
- ファクタリング会社と利用者が契約締結
- ファクタリング会社から手数料を控除した金額240万円が入金
- 1月31日にファクタリング会社へ100万円支払い
- 2月28日にファクタリング会社へ100万円支払い
- 3月31日にファクタリング会社へ100万円支払いファクタリング会社が回収完了
ファクタリング会社は審査で「将来債権がいくらあるか」を見積もり、買取額と手数料を決定します。
その後は、売掛債権が入金になる都度、ファクタリング会社へ支払いをおこない、ファクタリング会社は長期間かけて回収を完了します。
将来債権ファクタリングの審査のポイント
将来債権ファクタリングは通常のファクタリングよりも審査が厳しいですが、それでも基本は大きく審査ポイントは変わりません。
将来債権ファクタリングは次の4つのポイントが審査で重視されます。
- 売掛先企業の信用
- 売掛先企業との取引歴
- 見込まれる売上額の妥当性
- 利用者の信用
基本的に請求書ファクタリングと審査で確認されるポイントは変わりませんが、上記4つのポイントについてより厳しく審査されます。
将来債権ファクタリングの審査のポイントについて詳しく解説していきます。
売掛先企業の信用
将来債権ファクタリングの審査で最も重視されるのは売掛先企業の信用です。
- 売掛先企業に代金を支払うだけの資金的な体力があるか
- 継続的に利用者に対して発注ができるか
これらのポイントを審査で確認しており、「今後も継続的に発注があり、代金も遅れなく支払っていける」と判断されれば将来債権の回収可能性は高いので審査に通過できる可能性が高まります。
売掛先企業が優良企業、上場企業、官公庁などの場合には継続的な受注と期日通りの入金の可能性が高まるので審査では有利になります。
契約中の企業の中でも、最も信頼度の高い業者に対する将来債権を売却することで審査通過の可能性は高まるでしょう。
売掛先企業との取引歴
売掛先企業との取引歴も審査では重要になります。
売掛先企業との取引歴が長ければ長いほど「今後も継続的に受注があり、遅れなく代金が入金される」と判断されやすいためです。
例えば、数年にわたる長い取引歴があり、毎月受注がある企業に対する将来債権であれば「これからも継続的に受注がある」と判断されやすいでしょう。
一方、これまでほとんど取引がない企業は「将来にわたって受注が継続する可能性が低い」と判断されるリスクがあります。
将来債権ファクタリングで売却するのは、これまでできる限り長く取引が継続しており、支払いに遅れたことがない企業に対する債権とした方が審査で有利です。
長い期間継続的に取引のある業者に対する将来債権を売却するとよいでしょう。
見込まれる売上額の妥当性
将来債権として見込まれる金額が妥当なものかどうかも審査されます。
例えば取引先A社からこれまでは毎月40万円程度の受注があるのに、ファクタリングで売却する際には、「毎月100万円の将来債権」として売却しても「将来にこれまでの1ヶ月分の受注を超える発注が入る見込みはない」と判断されて、審査では不利になります。
将来債権は、これまでと同じ程度の売上の発生が見込まれる必要があるので、これまでの売上実績を超える売上の見通しを立てても審査では妥当な金額と判断されません。
将来債権ファクタリングを利用する際には、これまでの自社の売上実績・受注実績から見て妥当な金額で申し込みをするようにしてください。
利用者の信用
将来債権ファクタリングは2社間・3社間に関わらず利用者の信用も重視されます。
取引先からの受注を納期までにこなすことができるかどうかが重要になるためです。
いくら将来にわたって継続的な受注があったとしても、期日通りに納品できないのであれば入金もなされなので将来債権の回収可能性は非常に低くなってしまいます。
そのため、利用者に受注をこなすだけの能力があるかどうかは将来債権ファクタリングにおいて重要な審査ポイントです。
さらに2社間ファクタリングで実施される場合には、架空債権の計上や、他社への二重譲渡、代金の流用などのリスクも加わるので、あまりにも資金繰りの悪い企業は審査に通過できないことがあります。
将来債権ファクタリングの活用方法
将来債権ファクタリングの活用方法をご紹介します。
ファクタリングに依存するリスクを軽減する
通所のファクタリングは、一度利用すると依存してしまって抜け出せなというリスクがあります。
なぜなら、月次の営業にかかる費用をまかうために再度ファクタリングが必要になり、常態化してしまうからです。
ファクタリングで売掛債権を売却すれば、最短即日~3日程度でまとまったキャッシュが調達できるものの、実際に調達できる資金は売却した売掛債権の満額より少なくなります。
たとえば、期日通りに売掛金の支払いを待てば満額300万円の入金があるところ、ファクタリングの手数料が10%であれば、調達できるキャッシュは270万円とるわけですから、通常よりも30万円少ないキャッシュで事業を回していかなければなりません。
ファクタリングの利用から売掛金の支払いまでの1ヶ月間に何かしら資金繰りの対策を打っておかないと、翌月以降もキャッシュ不足でファクタリングに依存してしまうリスクがあります。
将来債権ファクタリングであれば、ファクタリング業者への売掛金の支払いを分割できるため、ファクタリング依存のリスクを軽減することができます。
ただし、あくまでもリスクの軽減ですので、将来を見据えた資金繰りの改善は行っていく必要があります。
根本から経営・財務を改善する
将来債権ファクタリングで売掛金の支払い負担が軽減できるということは、その場しのぎの一時的なキャッシュ不足の解消ではなく、根本から経営・財務を改善することが可能になったとも言えます。
従来のファクタリングでは1回の支払いの負担が大きいため、ファクタリングに依存しやすい体質を作ってしまうというリスクがありました。
将来債権ファクタリングなら1回の支払いの負担を減らし、長いスパンで資金繰りや財務体質の改善に取り組むことができます。
将来債権ファクタリングがおすすめの業界
将来債権が将来発生が見込まれる売掛債権を前倒しで資金化する方法です。
そのため、次のような継続的安定的に売上が見込まれる業界におすすめです。
- サブスクリプションビジネス
- 定期購入型の通販
- 不動産賃貸業
将来債権ファクタリングがおすすめの業界とその特徴について解説していきます。
サブスクリプションビジネス
サブスクリプションビジネスとは、サービスなどを一定期間利用する権利に対して対価を支払うビジネスモデルです。
例えば毎月1万円定額制の会員制のジムや、スマホアプリなどのWEBサービスが代表的です。
サブスクリプションビジネスでは、高い確率で将来にわたって現在の売上が継続することが予想されます。
将来債権ファクタリングの審査に通過しやすいビジネスモデルなので、まとまったお金を調達しやすいでしょう。
定期購入型の通販
定期購入型の通販なども将来債権ファクタリングの審査で有利になるビジネスモデルです。
水や健康食品などを定期購入する方法がこのビジネスモデルに該当します。
やはり、継続購入を前提にしているビジネスモデルですので、現在の売上が将来にわたって継続する可能性が高いと判断されるので、将来債権ファクタリングによって資金調達しやすいといえます。
不動産賃貸業
不動産賃貸業も将来債権ファクタリングの審査に通過しやすい業種です。
家賃は固定されていますし、基本的には1年契約であれば1年間は継続して居住を続けて家賃が支払わせ続ける可能性が非常に高いためです。
ファクタリング業者にとってはかなり確度の高い将来債権だと言えるので、審査では有利になるでしょう。
ファクタリングの中には「家賃収入ファクタリング」という商品がありますが、これは将来にわたって入金になる予定の家賃収入を前倒しで受け取るファクタリング商品です。つまり家賃収入ファクタリングは将来債権ファクタリングの1つです。
家賃収入は確度の高い将来債権ですので、不動産賃貸業所大家さんは将来債権ファクタリングを利用しやすいでしょう。
将来債権ファクタリングを利用した事例
運送業A社:車両購入費の600万円を将来債権ファクタリングで調達
数十年の付き合いがある主要取引先からこれまでの取引実績を評価され、東京~青森までの長距離輸送便を依頼されたA社。
これをきっかけにスタッフの増員と大型輸送車を増車していければ、大手企業からの受注も増えて事業拡大のチャンスでしたが、手元の資金だけでは車両購入等に必要な費用の工面が難しい状況でした。
銀行からはすでに利用額いっぱいに借りていたため、ファクタリングの利用を検討することに。
しかし、支払いが確定している売掛債権で600万円の資金を調達することは可能でも、翌月以降に従業員の給与の支払い等が難しくなるなど、資金繰りが悪化する懸念がありました。
そこでA社は付き合いのある税理士に相談、将来債権ファクタリングを取り扱っている業者を紹介されます。
A社には毎月750万円の売掛債権がコンスタントに発生していることが認められ、3ヶ月分の売掛債権から200万円ずつを買い取ってもらい、無事に車両購入費の600万円を調達することができました。
将来債権ファクタリングについてよくある質問
将来債権ファクタリングについてよくある質問は次のとおりです。
- 将来債権ファクタリングを返済しないとどうなりますか?
- 将来債権ファクタリングは2社間契約で取り扱われますか?
- 将来債権 ファクタリングの会計処理を教えてください
- 将来債権は差押えされますか?
- 将来債権譲渡の対抗要件とはなんですか?
将来債権ファクタリングを返済しないとどうなりますか?
将来債権ファクタリングを返済しない場合はファクタリング会社がその損失の責任を負います。
期日になっても返済しない場合には、利用者に対してファクタリング会社から確認の連絡が入ることはありますが、売掛先企業から支払いがない場合にはファクタリング会社に対して代金を支払う義務はありません。
ファクタリングは将来債権でも確定債権も償還請求権なし(ノンリコース)で実施されるためです。
なお、売掛先企業から入金があったにもかかわらずファクタリング会社へ送金しなかった場合には横領になる可能性があるので刑事告発される可能性があります。
将来債権ファクタリングは2社間契約で取り扱われますか?
将来債権の対抗要件は「売掛先の承諾と同意を得ること」か、「債権譲渡登記を設定すること」のいずれかです。
前者であれば3社間ファクタリング、後者であれば2社間ファクタリングで取り扱われるので、将来債権ファクタリングは2社間3社間いずれも取り扱いができるものと考えられます。
将来債権 ファクタリングの会計処理を教えてください
将来発生する債権は「前受金」として会計処理をおこないます。
ファクタリング会社に将来債権300万円を手数料20%を支払い、240万円の支払いを受けた
借方 | 貸方 |
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普通預金 240万円
支払手数料 60万円 |
前受金 300万円 |
売掛先企業から100万円の支払いがあったので、将来債権ファクタリング調達分のうち100万円をファクタリング会社へ支払った
借方 | 貸方 |
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前受金 100万円 | 普通預金 300万円 |
前受金は負債の勘定科目です。
そのため、将来債権ファクタリングで資金調達しても、負債を増やさずに会計処理することはできないと理解しておきましょう。
将来債権は差押えされますか?
将来債権は差し押さえできる可能性があります。
例えば養育費は将来受け取る分も含めて差し押さえることが可能です。
ただし将来債権の差押命令の申し立てが認められるかどうかはケースバイケースですので、必ずしも認められるわけではありませんし、一般的ではないと理解しておきましょう。
将来債権譲渡の対抗要件とはなんですか?
将来債権の対抗要件とは、譲受人が第三者に対して「すでに自分が譲渡を受けたものだ」と主張するために必要な要件です。
対抗要件を具備していれば、第三者と譲渡を争ったとして、自分の所有が認められます。
債権は形がないうえに、将来債権は将来発生する見込みの債権ですので、譲渡人が悪意をもって二重に譲渡してしまう可能性があります。
そのため将来債権ファクタリングの際には対抗要件を具備していることがファクタリング会社にとっては重要です。
将来債権の対抗要件は以下の2点です。
- 売掛先に対する通知
- 売掛先からの承諾
この2点を満たせない場合には債権譲渡登記によって対抗要件を具備できます。
2社間ファクタリングで取り扱われる場合には、債権譲渡登記が必要になる可能性が高いと理解しておきましょう。
将来債権を取り扱う市場は拡大が見込まれる
将来債権ファクタリングはまだまだ新興のサービスで知名度もあまり高くはありませんが、改正民法が施行される2020年4月を皮切りに、ファクタリング業界の中でもサービスを提供する業者の増加が予想されます。
将来債権の活用によってファクタリング市場が活発化することで、いま以上に手数料等の見直しが行われ、より好条件で低コストな資金調達を可能にする環境が整うでしょう。
一方で、将来債権ファクタリングをうたった悪質なサービスを提供する業者も現れないとは限りません。
以上のことから、今後ますますファクタリングの利用は業者選びが重要となるでしょう。
各会社のホームページや口コミサイト等による情報収集、実際にコンタクトを取って見積もり依頼をするなど、より慎重に自社の資金調達目的に合ったファクタリング会社を選ぶことが大切です。