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企業が事業を進めるうえで必要不可欠な資金調達には、必ず費用が発生します。事業資金の調達時に必要な費用を「資金調達コスト」といいます。
財務状況や資金繰りの悪化によって、資金調達を実施して事業資金を早急に必要とする事業者が多いのではないでしょうか。資金調達を図ることで一定の事業資金を確保できる一方で、必ず発生する資金調達コストなど費用の支払いが懸念点です。
本記事では、資金調達コストの概要から、算出方法や費用を減らすポイントまでをご紹介します。
この記事を読めば、資金調達コストの内容を網羅でき、出費を抑えた資金調達を行えます。資金調達コストの種類や目安が知りたい方や、費用を抑えたいとお考えの方はぜひ参考にしてみてください。
記事の目次
資金調達コスト(WACC)とは
資金調達コストとは、個人や法人が事業を運営するために必要な資金調達にかかる費用です。資金調達コストは英語で「Weighted Average Cost of Capital」と表記され、略称でWACCやワックとも呼ばれます。
資金調達を行う際は、一方的に事業資金の提供を受けるだけではなく、費用の支払いが発生します。融資では金融機関からの借入時に、一定割合の金利手数料が課されます。また、出資の場合は資金を提供した株主や投資家に対して配当の支払いが必要です。融資における金利手数料や出資における配当が、資金調達コストに該当します。
費用がかかりすぎないように低く抑えると、企業が得られる利益が大きくなるため、資金調達コストが非常に重要です。
資金調達における資金調達コストの意味
資金調達において資金調達コストとは、資金を得るために必要な経費です。借入を行った金融機関への金利手数料の支払いや株主への配当など、資金提供元への対価として支払いが求められます。
加えて、資金調達コストの高さは企業が持つ信用力に応じて変動する要素です。信用力が高く財務状況が安定した企業にかかる資金調達コストは低くなり、不安定な企業は高くなる傾向にあります。
資金調達コストを抑えるには、企業の事業基盤や信用度の安定が非常に重要な意味を持っています。
経営における資金調達コストの意味
企業の経営面においても、資金調達コストを考慮した運営が非常に重要です。
「コーポレートガバナンス・コード」において、企業価値の向上のために資金調達コストをふまえた事業運営の重要性が示されています。コーポレートガバナンス・コードとは、上場企業に求められるガイドラインとして定められている規則です。
コーポレートガバナンス・コードは2018年の改訂により、資金調達コストを重視した経営や事業運営が企業価値を高めるための重要な要素であると記されています。
いくら資金調達を行っても、発生するコストを超える収益を生み出さないかぎりは事業として成り立ちません。会社としての経営成績の向上や株主への配当に大きく影響を及ぼします。資金調達時にはコストを強く意識し、利益を多く作り出すための経営を進めなければなりません。
3種類の資金調達コスト
資金調達コストは、細分化すると3種類の費用が存在します。3種類の資金調達コストは、以下のとおりです。
- 株主資本コスト(自己資本コスト)
- 負債コスト(他人資本コスト)
- 内部留保コスト
同じ資金調達コストでも、種類によって費用の形態や特徴が異なります。それぞれの資金調達コストを理解して、各種費用の特性を把握しましょう。
株主資本コスト(自己資本コスト)
株主資本コストとは、株式の発行によって資金調達を図る際に発生する費用です。事業資金の調達方法のうち、出資・増資を受けた場合に発生する資金調達コストの一つです。
企業が保有する返済不要な資本を、自己資本といいます。株主資本コストは返済不要な資金にかかる費用のため、自己資本コストとも呼ばれます。
株主資本コストは出資を受けた企業が支払う配当であり、株主にとっては出資額をもとに受けるリターンです。
融資額に対する割合が設定される金利手数料とは異なり、株価が業績や情勢に応じて変動するため固定ではありません。
負債コスト(他人資本コスト)
負債コストとは、借入によって資金調達を行う際の費用です。資金調達手法のうち、銀行融資やビジネスローンなど金融機関からの借入が発生する場合の費用が負債コストです。負債コストは社債や借入金など返済の必要があるため、他人資本コストとも呼ばれています。
融資利用時の負債コストは、金利によって算出されます。借入を行った金額に金利が上乗せされた分の返済が必要であり、負債コストに該当するのは金利分の金額です。
設定されている金利の具体的な数値は、融資を利用する金融機関や資金調達手法ごとの相場によって差があります。高すぎる金利で借入を行うと、費用負担が嵩んでしまうおそれもあります。
どれくらいの金利や期間で融資を受けるかによって発生する負債コストの総額が変わるため、企業規模や経営状態に合った選択が必要です。
内部留保コスト
内部留保コストとは、企業が保有する利益によって資金確保を行う際に発生する費用です。そもそも内部留保とは、企業の収益から株主や役員への報酬支払いなどで発生した支出を差し引いて残った利益の貯蓄を行うことです。
内部留保では株主への配当金を企業内に保有する形であり、株主資本コストの一面もあります。
一定の内部留保があると企業の資金的余裕が生まれる一方で、課税対象となる場合もあります。内部留保を行った金額に対して「留保金課税」が課されるため、過度な資金確保は税負担の増加を引き起こしかねません。
内部留保から資金調達を行う際のコストに加えて、課税による出費が発生するため注意が必要です。
資金調達コストの算出方法
資金調達コストの数値を実際に求めるためには、決められた計算式を使用して算出する必要があります。
資金調達コストの計算式は、以下のとおりです。
【資金調達コスト(WACC)=RE×(E/(E+D))+RD(1-T)×(D/(E+D))】
※RE:株式資本コスト、RD:負債コスト、E:株式資本、D:負債、T:実行税率
資金調達コストを表すWACCは、加重平均資本コストを意味します。借入時のコストと株式調達時のコストを加重平均して算出されたのが、資金調達コストです。資金調達コストの算出によって、資金調達にかかったコストを明確にできます。
【資金調達手法別】資金調達コストの数値目安
資金調達コストの目安や相場は、資金調達手法によって差があります。どの資金調達手法を選ぶかによってかかる費用が大きく異なってくるため、コストの目安の把握が重要です。
以下のとおり、7つの手法ごとに資金調達コストを紹介します。
- 銀行融資
- 消費者金融の融資
- 日本政策金融公庫融資
- 制度融資
- ファクタリング
- ビジネスローン
- 増資
【手法別資金調達コストの数値目安】
資金調達手法 | 資金調達コスト |
銀行融資 | 金利:2%〜5% |
消費者金融の融資 | 金利:5%〜18% |
日本政策金融公庫融資 | 金利:0.3%〜5% |
制度融資 | 金利:1%〜2% |
ファクタリング | 2社間ファクタリングの金利:10%〜30% 3社間ファクタリングの金利:1%〜10% |
ビジネスローン | 金利:5%〜18% |
増資 | 企業の経営成績により変動 |
銀行融資
銀行からの借入によって融資を受ける場合、発生する資金調達コストは金利です。銀行融資にかかる金利の目安は、2%~5%となります。
資金調達コストが低く、もっともよく利用される資金調達方法の1つです。
銀行融資の審査では、企業の信用力や財務状況が問われます。事業規模が小さく経営面の実績が乏しい中小企業・ベンチャー企業には、審査通過のハードルが高く利用できないケースも考えられます。
銀行融資の審査通過が難しい場合は、創業したての企業を支援する融資プランや制度の利用を検討しましょう。
消費者金融の融資
消費者金融から資金調達を行う場合も、資金調達コストとして金利の支払いが必要です。
消費者金融の融資にかかる金利の目安は、5%~18%となります。
消費者金融の場合、通常の銀行融資よりも高い金利が設定されている点がデメリットです。
金利は高めな一方で銀行融資よりも審査が厳格ではなく、利用のハードルが低い点がメリットに挙げられます。また、申し込みから融資までのスピードも早く、迅速な資金調達が必要なシーンに向いています。
日本政策金融公庫融資
日本政策金融公庫融資も、資金調達コストとして金利の支払いが必要です。日本政策金融公庫融資の利用に必要な金利の目安は、0.3%~5%となります。
ほかの資金調達手法の資金調達コストよりリーズナブルで、1%を切る金利は大きなメリットです。
国が運営する金融機関である日本政策金融公庫の融資は、創業する企業の支援を目的として注力しています。低金利で長期間の利用を希望する創業したての企業などには、日本政策金融公庫融資がおすすめです。
制度融資
信用保証協会などの制度融資も、資金調達コストとして金利の支払いが必要です。制度融資の利用に必要な金利の目安は、1%~2%となります。
融資制度の中でも、1%台という低い金利手数料で利用できる点は魅力的です。
信用保証協会の融資制度は、金融機関の審査通過が困難な利用者の支援を目的として運営しています。金融機関に支払う金利手数料に加えて、信用保証協会への保証料が求められる点に注意しましょう。
通常の銀行融資では審査通過できない企業などに、信用保証協会などの制度融資がおすすめです。
ファクタリング
ファクタリングは、資金調達コストとして手数料が設定されています。ファクタリングとは、保有する売掛債権の売却によって決済期日より前に現金化する資金調達手法です。ファクタリングサービスの利用に必要な手数料の目安は、2社間と3社間それぞれ以下の表のとおりです。
種類 | 手数料相場 |
2社間ファクタリング(面談) | 10%~20% |
2社間ファクタリング(オンライン) | 2%~12% |
3社間ファクタリング | 1%~9% |
ファクタリングの形態には利用者とファクタリング会社間で契約する2社間と、取引先企業を含めた3社間の2種類があります。売掛先企業を介さずファクタリング会社と直接の取引が可能な2社間ファクタリングですが、10%〜20%と手数料の高さがネックです。
資金調達コストの過度な出費を避ける場合は、3社間ファクタリングがおすすめです。
ビジネスローン
ビジネスローンは、資金調達コストとして金利がかかります。ビジネスローンの利用に必要な金利の目安は5%~18%です。
ビジネスローンとは、消費者金融や信販会社などの金融機関から借入を行う資金調達手法の一種です。融資よりも申請時の審査基準が厳格でないため、信用力や経営状況が悪化した企業でも利用しやすい借入です。
低金利の銀行融資とは異なり、ビジネスローンの金利は5%〜18%と高めの水準であることがデメリットです。審査は柔軟ですが高い金利手数料を必要とするため、資金調達コストより審査通過や利用しやすさを重視したい場合に向いています。一方で、出費を抑えたい場合はほかの資金調達方法を検討するか金利を確認してから利用しましょう。
増資
株式を発行して投資家からの出資を募り、資本金を増加させることを「増資」と呼びます。増資によって資金の確保を行う場合は、出資元に対する配当の支払いが資金調達コストに該当します。
配当などの増資による資金調達コストは、融資のように一定の金利が設定されているわけではなく、企業の経営成績に左右されます。企業が上げた収益率などに応じて、比例して配当が高くなる仕組みです。
資金調達コストの全業界平均
資金調達コストの全業界平均は、5%〜7%の間で推移しているとされています。2018年のIR協議会調査によると、資金調達コストの平均値は5.86%です。
業界の特徴に応じて、資金調達コストの数値は異なります。例えば、電気・ガス・運送などの需要の変動が少ないインフラ業界は、全業界の平均よりも資金調達コストの数値が低い傾向にあります。
一方で、製造業や医薬品業界などの需要の変動が大きいところは、資金調達コストの数値が高く出やすいです。
事業の種類や形態によって必要な資金調達コストが大きく変わるため、業界別に資金調達コストの値を理解する必要があります。
出典:企業と投資家の資本コスト認識|公益財団法人 日本証券経済研究所
資金調達コストを抑える方法
資金調達コストを抑えるために、実施すべき方法があります。資金調達コストを抑える方法は、以下の5つが挙げられます。
- 低金利の融資利用
- 信用保証協会の保証を受ける
- 不動産担保
- 経営状況による交渉
- 返済計画をもとに交渉
低金利の融資利用
低金利な金融機関を選べば、資金調達コストが低く抑えられます。
融資元の金融機関によって、設定されている金利の目安が大きく異なります。融資は1%台の金利で利用可能な金融機関も多く存在しますが、ビジネスローンや消費者金融では10%以上の高い金利が必要です。
銀行融資や公的融資など、金利の相場が低い制度を利用すると無駄な出費を抑えられるためおすすめです。
一方で、低金利の融資は審査基準が厳しい場合もあり、利用のハードルが高い傾向にあります。事業の実績が乏しく、信用力や財務状況が悪化している企業は審査落ちで利用不可のケースも考えられます。
創業したてのベンチャー企業を支援する公的な融資制度も設けられているため、通常の融資が利用できない場合は検討しましょう。
信用保証協会の保証を受ける
資金調達を行う際に、信用保証協会の保証を受けるとコストを低く抑えられる場合があります。
企業の資金調達を支援する信用保証協会は、保証が付帯した融資制度を実施しています。信用保証協会の保証付き融資は、信用力などにより金融機関の審査が通過できず利用できない企業が融資を受けやすくするのを目的とした制度です。
信用保証協会の保証を受けると、融資を利用する金融機関の審査が通過しやすくなったり低金利で利用できたりします。
ただし、信用保証協会への保証料として1%〜2%の手数料が発生します。信用力や経営状況が悪く審査通過できない場合や低金利で融資を利用したい場合に、信用保証協会の保証付き融資がおすすめです。
不動産担保
不動産を担保にした融資商品は、金利が低く設定されており資金調達コストを抑えられます。また、返済の猶予期間を延ばしたり融資限度額を増加したりすることが可能なケースもあります。
ただし、不動産担保ローンは事務手数料・保証料・印紙税などがかかるため、あらかじめ見積もりを取るのがおすすめです。不動産を担保にした場合と通常時とで発生するコストを比較して、安価な方を選択しましょう。
経営状況による交渉
経営状況の悪化を理由に、資金調達コスト引き下げの交渉をしましょう。
融資した金融機関は、元金が返済されないリスクを極力回避したいものです。そのためには、一時的な金利の引き下げやリスケジュールも交渉の余地があります。
資金調達コストの値下げが実現すれば、キャッシュフローや資金繰りの改善が見込めます。事業計画・返済計画を十分に立てて、金融機関に交渉してみましょう。
返済計画をもとに交渉
返済計画に無理が生じた旨を金融機関に伝えて交渉する方法で、資金調達コストを下げましょう。
返済計画と経営状況を照らし合わせ、このままだと資金ショートに陥ると提示してください。金融機関は元金未回収リスクを避けるため、資金調達コストの軽減に応じる可能性があります。
無理のない返済計画・利率を再設定し、しっかりと元金が返済できる計画を立てましょう。
資金調達コストを重視した経営に必要な指標
資金調達コストを重視して、過度な費用負担を受けないための経営を行う際に確認すべき指標があります。資金調達コストを重視した経営に必要な指標は、以下の3つが挙げられます。
- ROE(自己資本比率)
- ROA(総資産利益率)
- ROIC(投下資本利益率)
ROE(自己資本比率)
ROE(Return On Equity)とは企業が保有する自己資本をもとに生み出された利益の割合を示す指標で、自己資本比率とも呼ばれています。
借入金などの他人資本と異なり、自己資本は返済不要な純資産を意味する事業資金です。自己資本は借入による金利が発生しないため、資金調達コストがかかりにくいのが特徴です。
ROEは、自己資本を活用してどれだけ効率的に利益を上げられたかを算出できます。ROEの算出方法は、以下のとおりです。
【ROE(自己資本比率)=当期純利益÷自己資本×100(%)】
ROEが高いほど、資本を上手く活用して効率よく利益を生み出しているとみなされます。日本経済新聞によると、2021年度のプライム上場企業におけるROEの平均は9.7%です。ROEが10%以上なら、自己資本を活かして事業を上手く回せている状態と判断できます。
ROA(総資産利益率)
ROA(Return On Asset)とは企業が保有する資産の全てから生み出された利益の割合を示す指標で、総資産利益率とも呼ばれています。
ROAの計算式は、以下のとおりです。
【ROA(総資産利益率)=利益÷資産×100(%)】
ROEと同様に、ROAの数値が高いほど効率的に利益を生み出せている証拠です。10%以上が目安のROEと異なり、ROAは5%以上で良好だと考えられます。
ただし、仮に企業が負債を抱えていてもROAは高い数値が算出される点に注意する必要があります。ROAが高くても、負債が大きすぎると健全な経営状態とは言えません。また、資金調達コストが高いと将来の需要変動などで利益が圧迫される恐れがあります。ROAが高いうちに資金調達コストを見直し、持続可能な経営を目指しましょう。
ROIC(投下資本利益率)
ROIC(Return On Invested Capital)とは、投下資本によって生み出された利益の割合を示す指標です。
ROICを算出する計算式は、以下のとおりです。
【ROIC(投下資本利益率)=税引後営業利益÷投下資本×100(%)】
【投下資本例】
資金調達側:有利子負債+株主資本
資金運用側:運転資本+固定資産
投下資本とは、企業が金融機関からの借入や株式発行によって調達した分で事業に投資した資金です。ROAやROEでは測れない、資金調達に投下した資金における利益率をROICは算出できます。
資金調達コストを重視した経営に重要な指標の一つとして近年注目を集めており、ROICの活用が欠かせません。
コストを抑えて効果的な資金調達を利用しよう
資金調達コストの種類や手法別の数値目安から、具体的な算出方法に加えて費用を減らす方法までご紹介しました。
資金調達コストは出資や融資などの資金調達手法によって、株主資本コストや負債コストなどの種類に分けられます。
また、資金調達コストは手法ごとに金利などの数値相場が異なります。そのため、どの資金調達手法を選択するかによって、かかる資金調達コストの大きさが変わってくるため注意が必要です。
資金調達コストを抑えるためには、なるべく低い金利の融資を利用したり不動産を担保にしたりする工夫が求められます。さらに、資金調達コストを経営面に反映させていくには、ROICなどの資本単位の利益率を表す指標を活用する必要があります。
安定した資金繰りや事業運営のためには、資金調達が必要不可欠です。コストを抑えて効果的に資金調達を実現しましょう。