資金調達にはさまざまなシリーズがあるものの、それぞれの特徴が分からず資金調達に悩んでいる方も多いのではないでしょうか?シリーズごとに資金の利用目的は異なり、適切な調達先を選ぶのが大切です。
本記事ではシリーズAを中心に、各シリーズの特徴・適した資金調達手段などを解説します。本記事を読めば資金調達における各シリーズの特徴を理解でき、適切な資金調達手法を選べるようになります。資金調達をスムーズに行い、資金繰りを安定させたいスタートアップは参考にしてください。
そもそも投資ラウンドとは
投資ラウンドとは、投資家が企業に対して出資する段階を意味します。もともとアメリカのシリコンバレーで生まれた考え方で、投資家が企業の成長段階を把握しやすくするために利用されています。
投資ラウンドには複数の種類があり、具体的には以下の通りです。
投資ラウンドの種類 | 企業の成長段階 |
エンジェル | 創業直後、商品・サービスが出ておらず、アイデアの段階 |
シード | ビジネスの大枠が決まった段階 |
シリーズA | 商品・サービスをリリースした直後の段階 |
シリーズB | 商品・サービスが評価され、ビジネスが軌道に乗っている段階 |
シリーズC | 黒字経営など経営が安定化し始めた段階 |
シリーズD・E | 収益が安定し、事業規模拡大などに乗り出す段階 |
各ラウンドごとに資金の調達目的は異なります。初期のラウンド(シードラウンドやシリーズA)では、企業は製品開発・市場調査に必要な初期資金を調達するのが一般的です。後期のラウンド(シリーズB、Cなど)では、より大規模な事業拡大・市場浸透を目指すための資金が調達されます。
各ラウンドで調達される資金額・投資家の種類は、企業の成長段階・市場環境によって異なるため注意が必要です。投資ラウンドを理解しておけば、出資を依頼する適切な投資家を判断しやすく、資金調達の成功確率が向上します。
投資ラウンドのシリーズAとは
シリーズAとは、企業が商品・サービスをリリースした直後の段階を意味します。シードラウンドに続く段階で、主にベンチャーキャピタルからの投資がメインです。
シリーズAでは、企業は製品・サービスの開発を進めて市場での立ち位置を確立していきます。シリーズAで調達した資金は、製品開発・マーケティング・新規採用などに使われるケースが多いです。エンジェル・シードラウンドと比べて、調達する金額が一気に大きくなります。
シリーズBとはどう違う?
シリーズBはシリーズAに続く投資ラウンドで、事業をさらに拡大して市場での地位を強化するための資金を調達します。シリーズBでは、すでに市場で一定の成功を収めており、商品・サービスが顧客に受け入れられているケースが多いです。
シリーズBの資金は、事業拡大・海外進出・M&Aなどに使われます。また、シリーズBではより大きな投資が行われるため大きなリスクも伴います。したがって、シリーズBの資金調達先は経験豊富で大規模な投資家・ベンチャーキャピタルがメインです。
シリーズAの資金調達額はどれくらい?
シリーズAの資金調達額は企業・業界などにより異なりますが、数千万円〜数十億円規模となるケースが多いです。リリースした商品・サービスを軌道に乗せるため、シリーズBに向けて1年〜2年分の運転資金を投資家・金融機関から調達します。
なお、海外でシリーズAでの資金調達額を報告した調査があります。Investopediaによれば、2020年のシリーズAの平均資金調達額は1560万ドルでした。また、forecastrによれば、シリーズAの平均資金調達額は約1290万ドルです。
上記の数値はあくまで平均であり、実際の資金調達額はスタートアップのビジネスモデル・成長率・将来性などにより大きく変動します。シリーズAはスタートアップが成長し、ビジネスを軌道に乗せるための重要なラウンドです。適切な投資家・金融機関から、自社に必要な資金を確実に調達するのが大切です。
参考:Series Funding: A, B, and | Investopedia
参考:Do You Know How Big the Average Series A Funding Round Is?
シリーズAの主な資金調達方法
シリーズAの資金調達方法は多岐にわたりますが、主に以下2つの方法が挙げられます。
- ベンチャーキャピタル
- 金融機関
上記の方法は各々で異なる特性・メリットを持ち、企業の状況によって最適な調達方法は異なります。自社に合った資金調達方法を選択するのが大切です。
ベンチャーキャピタル
ベンチャーキャピタルは、スタートアップに対する投資をメインとする企業で、シリーズAにおける主な資金調達方法の1つです。ベンチャーキャピタルは、ビジネス初期段階の企業に投資し、上場後に株を売却して高いリターンの取得を目指します。
ベンチャーキャピタルは企業の株式を取得し、経営に一定の影響力を持つケースが多いです。また、ベンチャーキャピタルは資金提供だけでなく、経営のアドバイスを提供するケースもあります。ベンチャーキャピタルが持つネットワーク・経験を活用して、スタートアップが成功するための支援を提供します。
金融機関
金融機関からの資金調達も、シリーズAで考慮される一般的な方法です。金融機関には銀行ローン・信用組合からの融資も含まれます。
金融機関からの資金調達は、低い利息率で多額の資金を調達できるのが特徴です。ただし、金融機関は貸付に厳格な基準を設けており、スタートアップが融資基準を満たすのは困難な場合があります。
また、金融機関からの資金調達は借入であるため、返済義務が発生する点がデメリットです。一方で、ベンチャーキャピタルから提供された資金に返済義務は発生しません。
ベンチャーキャピタルから資金調達するメリット・デメリット
ベンチャーキャピタルはスタートアップにとって重要な資金調達先ですが、メリット・デメリットがあります。以下の見出しにて、ベンチャーキャピタルから出資を受けるメリット・デメリットを詳しくみていきましょう。
メリット
ベンチャーキャピタルのメリットは、返済義務がない点です。ベンチャーキャピタルは借入ではなく出資であるため、基本的に返済の必要がありません。事業が想定より成長せず返済が不安な場合でも、安心して資金調達できる点は経営者にとって大きなメリットです。
また、ベンチャーキャピタルは数多くのスタートアップに出資しており、経営に関する知識・ノウハウを社内に蓄積しています。出資だけでなく今までの経験を活かしたアドバイスをもらえるケースもあり、ビジネスの成長に大きく貢献してくれる可能性があります。また、ベンチャーキャピタルは豊富な人脈も持っており、新規顧客の紹介を受けられる点もメリットです。
デメリット
ベンチャーキャピタルのデメリットは、経営の自由度が下がる点です。ベンチャーキャピタルは一般的に出資条件として、出資額に応じた株式の付与を求めます。ベンチャーキャピタルが株主となるため、企業の経営に干渉してくるケースも多いです。
自己資本を中心とした企業と比較し、ベンチャーキャピタルの意見も経営に反映されるため、経営の自由度は下がってしまいます。特にシリーズA以降は資金調達額も大きくなるため、保有株式比率が大きく下がりやすい点に注意が必要です。
ベンチャーキャピタル1社のみが出資先の場合、競争原理が働かず不利な交渉を持ちかけられる場合もあります。ベンチャーキャピタルに出資を依頼する場合は、複数の企業に話を伺うのがおすすめです。
金融機関から資金調達するメリット・デメリット
金融機関もスタートアップにとって重要な資金調達先ですが、メリット・デメリットがあります。以下の見出しで、メリット・デメリットを詳しくみていきましょう。
メリット
金融機関から資金調達するメリットは、持ち株比率を下げずに資金調達できる点です。融資は借入した金額を一定期間で返済していく方式であるため、ベンチャーキャピタルのように株式を付与する必要があります。持ち株比率が下がらずに済むので、経営の自由度を確保したまま資金調達できます。
人に口出しされず自由に経営したい方は、金融機関から資金調達しましょう。また、金融機関からの融資は審査が厳しい傾向にありますが、日本政策金融公庫であれば民間の銀行に比べると融資のハードルは低いです。事業実績が少ない内は、日本政策金融公庫の利用がおすすめです。
デメリット
金融機関から資金調達するデメリットは、融資審査がある点です。金融機関からの融資は出資とは違い、融資した金額の返済を前提に資金が提供されます。事業主の返済能力が重視されるため融資の審査は厳しい傾向にあり、審査落ちしてしまうと資金調達できなくなるケースも少なくありません。
融資審査を受ける際は、事業計画・返済計画を綿密に練って金融機関に伝える必要があります。また、返済義務があるため資金繰りが厳しくなった時に返済できなくなるリスクがある点もデメリットです。
各ラウンド・シリーズごとの主な資金調達方法
以下のラウンド・シリーズごとに、主な資金調達方法を解説します。
- シードラウンド
- シリーズB
- シリーズC・D・E〜上場
スタートアップの成長とともに、資金調達の方法は変化します。ラウンド・シリーズごとに適切な資金調達方法を選択するのが大切です。
シードラウンド
シードラウンドは、スタートアップが最初に資金を調達する段階です。シードラウンドでは、主に以下の資金調達方法が挙げられます。
- エンジェル投資家
- 親族からの資金援助
- 経営者自身の資金
- クラウドファンディング
- インキュベーターからの投資
インキュベーターとは、新規ビジネス・起業家を支援する組織を意味します。日本では、行政・大学・NPO法人などがインキュベーターとして多くのスタートアップを支援しています。
シードラウンドでは、収益性がある商品・サービスのリリースに向けた活動資金の調達がメインです。調達額は数千万円〜数億円の規模になるケースが多くあります。
シードラウンドでは、事業に対して適切なアドバイスをくれる出資先を選びましょう。出資先が株主となった場合は長い付き合いとなるため、慎重に選ぶのが重要です。
シリーズB
シリーズBでは、市場シェアの拡大をさらに進めるための資金を調達します。出資額が大きくなるため、ベンチャーキャピタル・プライベートエクイティファンドなど大規模な出資先からの投資を検討するケースが多いです。
調達した資金は、広告費用・既存サービスの改良費用など、事業規模を大きく拡大させていく用途がメインとなります。出資額が大きくなるため、資金のスムーズな調達には出資先に対して投資金額に対する事業成果の的確な説明が必要です。
シリーズC・D・E〜上場
シリーズC以降のラウンドでは、企業はさらに大規模な事業拡大・グローバル展開を目指すための資金を調達します。シリーズC以降では、主にプライベートエクイティファンド・ヘッジファンドから資金調達するケースが多いです。
また、シリーズC以降の企業は銀行からの融資・債券発行も検討します。最終的には、株式公開(IPO)を通じて市場からの大規模な資金調達を目指すケースが多いです。
資金調達を成功させるポイント
資金調達を成功させるポイントとして、以下の4つが挙げられます。
- 資金調達は早めに始める
- 株式を渡しすぎない
- 現実的な事業計画を作成する
- 複数の投資家・機関にアプローチする
資金調達を行う際は、上記ポイントを参考に出資先へアプローチを試みましょう。
資金調達は早めに始める
資金調達は時間・労力がかかるため、早めに始めるのが重要です。創業間もない時期は経営業務で忙しく、資金調達を後回しにしてしまうケースがよくみられます。しかし、手元資金が少ない状態で資金調達すると交渉時に足元をみられて不利な出資条件を結ばされる可能性があります。
早めに動き出せれば十分な時間を確保して投資家との関係を築き、最適な条件で資金調達が可能です。また、資金が尽きる前に新たな資金を確保すれば企業の運営をスムーズに続けられます。資金調達には2ヶ月〜3ヶ月程度かかるケースが多いため、資金が枯渇する半年前には出資先へのアプローチを始めましょう。
株式を渡しすぎない
資金調達時は、株式を渡しすぎないようにしましょう。ベンチャーキャピタルからの資金調達は、出資額に応じて企業の株式と引き換えに行われます。しかし、株式を渡しすぎるとベンチャーキャピタルの経営権が大きくなり、経営の自由が失われてしまう可能性があります。
また、経営の自由が失われるだけでなく上場時に創業者としての利益をほとんど受けられなくなってしまいます。必要な資金を確保しつつも、持ち株比率を下げすぎずにバランスよく資金調達するのが大切です。
ベンチャーキャピタルの中には、取締役を派遣できる条文を含めた契約を提示する企業もあります。ベンチャーキャピタルとの契約時には契約内容をよく確認し、経営上のリスクがないか弁護士など専門家に確認するのがおすすめです。
現実的な事業計画を作成する
資金調達に使う事業計画は、現実的な内容で作成しましょう。金融機関・投資家は企業のビジネスモデル・将来性に基づいて投資決定を行います。実現が難しいなど現実的でない事業計画の場合、事業で収益を上げられる見込みがないと判断されて出資・融資を受けられません。
したがって、現実的に達成可能な事業計画を作成するのが重要です。投資家は企業が成功する可能性が高いと判断し、投資を決定する可能性が高まります。
また、仮に作成した事業計画が達成できなそうだとしても、事業計画を達成する姿勢は見せる必要があります。「最初から事業計画は達成するつもりはなかった」と出資側に判断されれば信頼を失い、新たに資金調達できなくなってしまいます。
複数の投資家・金融機関にアプローチする
資金調達時は、複数の投資家・金融機関にアプローチしましょう。事業計画を綿密に作り上げても、必ず資金調達できるとは限りません。1つの出資先しかアプローチしていなかった場合、資金調達できなかった時に資金が枯渇してしまい、経営が困難となってしまいます。
また、1つの出資先のみから資金調達した場合、競争原理が働かないため不利な条件で契約を迫られる可能性もあります。複数の投資家・金融機関に話を伺い、自社に最適な出資条件を出すところから資金調達を行いましょう。
資金調達時の注意点
資金調達時の注意点として、以下2つが挙げられます。
- ビジネス失敗時の対策を事前に行う
- 意思決定に関する契約は慎重に行う
資金調達時は、上記のポイントに注意しましょう。
ビジネス失敗時の対策を事前に行う
ビジネスが失敗した時の対策を、事前に行っておくのが重要です。上手く資金調達できたとしても、ビジネスが必ずしも成功するとは限りません。
自社メンバーが再起できるよう、ビジネスが上手くいかなかった場合の対策を事前に練っておきましょう。たとえば、ベンチャーキャピタルと資金調達時の契約で「廃業時に株式の買取を求める」条項を設定しないよう気をつけてください。株式の買取資金がなければ返済を定期的にしなければならず、再起するまでに時間がかかってしまうためです。
意思決定に関する契約は慎重に行う
資金調達時、意思決定に関する契約は慎重に行いましょう。ベンチャーキャピタルからの資金調達では定款の変更・組織再編など重要な意思決定に関して、出資者の承諾が必要となる契約を提示される場合があります。
もし、意思決定をベンチャーキャピタルに委ねてしまうと「少人数ですぐに意思決定して実行に移せる」スタートアップの強みを活かせず、経営が上手くいかなくなる可能性があります。資金調達の契約では、創業メンバーで自由に経営できるよう慎重に検討しましょう。
資金調達には「ファクタリング」もおすすめ
金融機関・ベンチャーキャピタル以外にも、「ファクタリング」による資金調達もおすすめです。ファクタリングとは企業が売掛債権をファクタリング会社に売却し、現金化する資金調達方法です。
ファクタリングは、迅速に資金調達ができるメリットがあります。金融機関のような融資審査もなく、売掛債権の健全性さえ確認できれば最短即日で資金調達できる点が魅力です。
また、ファクタリングにも審査はあるものの、企業・個人の信用情報は審査対象ではありません。新規ビジネスを立ち上げたばかりのスタートアップ・個人事業主も、売掛債権さえあれば問題なく資金調達できます。
ただし、ファクタリングは一定の手数料などが発生します。ファクタリング会社を選ぶ際は複数社から検討し、自社にあった会社を選ぶのが重要です。
シリーズAの特徴を理解し資金調達を成功させよう
シリーズAとは企業が商品・サービスをリリースした直後の段階で、ビジネスを安定させるために多額の資金が必要です。資金調達の方法は多岐にわたり、シードラウンドからシリーズA・B・Cと進むにつれて変化します。
シリーズAではベンチャーキャピタル・金融機関からの資金調達が一般的ですが、ファクタリングなど他の方法もあります。資金調達を成功させるためには、早めに動き出すのが重要です。
また、ビジネスが上手くいかなかった場合の対策も忘れずに行っておきましょう。シリーズごとの特徴を理解して資金調達をスムーズに行い、資金繰りを安定させましょう。