「取引先の売上入金日までのつなぎ資金が至急必要!」
「古くなった自社ビルの建て替え費用を外部から調達したい」
このような資金ニーズが生じた場合、多くの事業者の方は銀行から融資を受けることを検討されるのではないでしょうか?
銀行の融資にはいくつかの種類があり、そのうち「手形貸付」と「証書貸付」の2つが事業資金の調達によく利用されています。
今回は銀行融資の基本である「手形貸付」と「証書貸付」に関して、その特徴やメリット・デメリット、使い分けの方法について解説します。
手形貸付とは
手形貸付は金融機関が融資するにあたり、借主を振出人、貸主を受取人とする約束手形を振り出させ、その手形を担保に手形金額に相当する額の貸付けをすることです。
一般的な商取引では、商品やサービスを先に納入して、代金の支払いは後からという掛取引が行われます。代金を支払う側の企業が支払期日や支払金額を記載して納入企業に支払いを約束する証書が「手形」です。
従業員の賞与資金や所得税・消費税などの納税資金、あるいは売上が入金される前に外注費や材料費などを支払う必要があるときの運転資金などを目的として利用されます。
借入期間・返済方法
手形貸付の借入期間は、売上代金の入金などをめやすに3ヶ月、6ヶ月など1年以内の短期融資として貸し付けられます。
また、融資額から利息分を引いた金額を借り入れるというのが主流で、借主は手形の支払期日に借入金を一括返済します。
期日一括返済以外にも、手形期日前に手形金額の一部を返済する「手形の内入れ」という返済方法もあります。手形の内入れでは、手形期日前に代金の一部が取引先から支払われた場合に、借入金額の一部を内入れして、支払利息を減額することができます。
手形貸付のメリット
手形貸付のメリットは以下のとおりです。
- 一般的な融資に比べて圧倒的に審査スピードが早い(2回目以降は即日融資も可)
- 一般的な融資に比べて金利が低い
- 何回も繰り返し借り入れできる
- 負債を増やさずに資金繰りができる
手形を担保に入れることで、銀行のプロパー融資よりも審査に通りやすく、金利も低いというメリットがあります。
さらに、手形貸付は工事や開発の売上が入金されるまでのつなぎ資金としての使途が一般的で、売上が入金されれば一括返済となります。そのため、実質的には負債を増やさずに資金繰りを回すことが可能です。
手形貸付のデメリット
手形貸付のデメリットは以下のとおりです。
- 長期的に借りることができない
- 手形の額面以上の融資を受けられない
- 売上の入金が遅れて返済できない場合はリスケ扱い
- 2回の不渡りで銀行取引停止
手形貸付の借入期間は1年以内とスパンが短く、まとまった金額を借入れることができないため、設備資金などのまとまった資金ニーズには向いていません。
さらに、期日までに返済ができなかったり、遅れたりした場合には厳しい罰則が課せられます。なかでも2回不渡りを出すと銀行取引自体が停止となり、事実上の倒産に陥ってしまいます。
証書貸付とは
証書貸付は金融機関が融資するにあたり、金銭消費貸借契約書と呼ばれる借用証書を取り交わす融資のことです。プロパー融資、信用保証協会保証付融資、日本政策金融公庫の融資制度、ビジネスローンなどは通常、証書貸付の形態を採ります。
原則として不動産などの担保や保証人を立てる必要があり、金銭消費貸借契約書には貸付金額、資金使途、最終期限、返済方法、利率、利息の支払い方法、遅延損害金などが記載されます。
審査では一般的な融資と同じように申込者の返済能力が調査されます。原則として1年以上の長期間の融資となるため、将来にわたって安定して返済能力があるかどうかが重要です。
借入期間・返済方法
証書貸付は1年以上の長期融資が一般的です。運転資金の場合は7年以内、設備資金の場合は15年以内が返済期限となっています。
返済方法は元金均等返済といって、借入金額を返済期間で割り、毎月同じ額の元金を返済していく方法です。利息はその返済時点での元金残高に対してかかるため、最初は月々の支払利息が多く、元金が減るにつれて月々の支払い利息が減っていきます。
初回の返済が難しい場合には、半年~2年程度の利息のみの支払期間(据置期間)を設け、その期間経過後から元金の返済を開始するという契約も可能です。
証書貸付のメリット
証書貸付のメリットは以下のとおりです。
- 高額の融資が受けられる
- 長期運用に向いている
証書貸付は基本的に1年以上の長期融資ですので、まとまった金額を一括で借り入れでき、長期的に必要な運転資金、設備資金の調達に向いています。
証書貸付のデメリット
証書貸付のデメリットは以下のとおりです。
- 申込み~融資実行までの期間が長い
- 手形貸付より金利が高い
- 収入印紙代が高い
証書貸付は融資期間が長期に及び、金融機関側にとってはリスクが大きくなるため、信用調査や事業計画など審査に要する時間も長くなります。申込みから平均して3週間~1ヶ月くらいの審査期間がかかることに留意しておきましょう。
さらに、審査でリスクが高い融資と判断されれば、たとえ借入ができたとしても金利や付帯条件(担保など)も厳しいものとならざるを得ません。融資額が高額になると収入印紙代も高くなるため、手形貸付よりも調達コストがかかります。
手形貸付と証書貸付の違いまとめ
手形貸付と証書貸付のそれぞれの特徴、メリット・デメリットを見てきました。ここでは、両者の違いを一覧でまとめます。
手形貸付 | 証書貸付 | |
主な資金使途 | つなぎ資金(売上入金前の外注費や材料費、納税資金) | 長期運用の運転資金、事業資金 |
借入期間 | 1年以内 | 1年以上 運転資金:7年以内 設備資金:15年以内 |
返済方法 | 手形の支払期日に一括返済 | 元金均等返済(毎月または半年に1回の返済) |
借入可能額 | 手形の額面未満 | 100万円~数億円 |
担保 | 不要(手形を実質担保とする) | 原則必要 |
保証人 | 個人事業主は不要 法人は代表者の連帯保証 |
原則必要 |
融資実行までの期間 | 最短即日 | 3週間~1ヶ月 |
利率のめやす | 年1.00~4.00% | 銀行:年2%~ ノンバンク:年10~18% |
据置期間 | なし | あり |
手形貸付と証書貸付の使い分け
手形貸付と証書貸付の違いはここまで解説したとおりです。双方をどのように使い分けるかは、メリットやデメリットを総合的に検討して、自社の経営状況や資金ニーズに応じて選択していきましょう。
手形貸付はIT企業のシステム開発案件や建設業の工事案件など、3ヶ月~1年以内を期日とする案件の多い業種が最も効果的に使えます。たとえば「大きめのプロジェクトで外注スタッフの増員が必要」「着工前に人員と車両を揃えておく必要がある」といったケースでの利用がおすすめです。
一方の証書貸付は、新規で事業を始めたり、設備を新しいものに買い替えたりする場合に適しています。本来であれば自己資金ですべてまかなえることが理想ですが、証書貸付でまとまった資金を借り入れたほうが事業の成長スピードを早められる場合もあります。
いずれも外部からの資金調達が必要になったときに、手形貸付と証書貸付を活用することで資金繰りを上手く回すことができます。
手形貸付と証書貸付に関するQ&A
手形貸付と証書貸付に関して、よくある質問とその回答をQ&Aにまとめました。
- Q.手形貸付と手形割引はどのように違うのですか?
- A.手形貸付と手形割引の違いは、手形の振り出し先が違います。手形貸付は自社(借主)が金融機関(貸主)に対して振り出しますが、手形割引は自社の取引先などから振り出された手形を利用します。したがって、手形貸付の審査では自社の返済能力が重視されますが、手形割引の審査では自社の返済能力に加えて手形の振出人(取引先)の信用力も重視されます。ただし、銀行ではない手形割引専門業者の場合はこの限りではありません。
- Q.手形貸付を信用保証協会保証付で利用できますか?
- A.できます。手形貸付の場合は、あらかじめ一定の限度額・期間を定め、限度額の範囲内で反復継続して融資が可能な「手形貸付根保証」という商品があります。保証限度額は2億8,000万円以内(無担保保証限度額8,000万円含む)、返済期間は2年以内、保証料率は年0.45%~1.90%です。法人は代表者の連帯保証人、担保は必要に応じて求められます。
- Q.繰り返し借入・返済ができるカードローンタイプのビジネスローンも証書貸付ですか?
- A.設定された極度額の範囲内で繰り返し借入・返済ができるタイプの融資は「当座貸越」といい、証書貸付とは異なる形態の融資です。契約期間は1年となっており、期間が満了したら更新の手続きが必要です。契約しておけば資金が必要なときにすぐ借り入れできるため非常に使い勝手の良い融資ですが、銀行にとってはリスクが高いため、証書貸付よりも金利が高めに設定される傾向にあります。
つなぎ資金が必要な場合はファクタリングもおすすめ
手形貸付と証書貸付のそれぞれの特徴やメリット・デメリット、使い分けのヒントを解説しました。
取引先案件の売上入金までに資金調達が必要になったときは、手形貸付という方法が有効ですが、融資とは異なる「ファクタリング」も選択肢の一つとなるでしょう。
ファクタリングは、保有している売掛債権(請求書)をファクタリング会社に手数料など差し引いた金額で買い取ってもらう取引です。
手数料が発生するため債権額面の100%で買い取ってもらうことはできませんが、融資ではないため審査で返済能力が問われず、売却後の返済義務もありません。
たとえば、万が一、取引先から売掛金が回収できなかったというケースで考えると、手形貸付で資金を調達した場合は債権回収の可否に関わらず借入した分の返済義務が生じます。
一方のファクタリングは償還請求権のないノンリコース契約ですので、たとえ売掛金が回収できなかったとしても、利用者に買い戻しの義務が発生しません。
以上のような特徴から、手形貸付とファクタリング、あるいは融資とファクタリング、どちらを利用した方が最善なのか、自社の資金ニーズや経営状況に応じてしっかりと見極めましょう。