ファクタリングの法的根拠・違法性
ファクタリングは特別な許認可が必要ないことから、なかには悪質な業者も存在しています。
過去には、あるファクタリング業者が利用会社から金利を得たとして、貸金業法違反で逮捕された事例もありました。
では、ファクタリングはどのような法律によってその事業を提供できるのでしょうか。
ファクタリングの法的根拠
民法をもとに、3社間ファクタリングと2社間ファクタリングの法的根拠について解説します。
3社間ファクタリング
3社間ファクタリングは、利用会社・ファクタリング会社・売掛先(取引先、クライアント)の3社間で契約を結び、売掛先の同意を得たうえで債権譲渡が行われます。
その法的根拠は、民法第466条および第467条によります。
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- 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
- 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
売掛債権(売掛金)は、譲渡人(ファクタリング利用会社)と譲受人(ファクタリング会社)の合意があれば、譲渡人の売掛先の承諾が必要なく、自由に売買できる性質をもっています。
しかし、第2項にあるように、債権譲渡は当事者間では有効なものの、債務者(売掛先)や第三者に対しては有効ではありません。
ファクタリング利用会社が複数のファクタリング会社に対し、同一の売掛金を譲渡することもできてしまうのです。
譲受人が第三者に自身が債権者であることを主張するには、民法第467条にもとづく「対抗要件」という手続きが必要になります。
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- 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
- 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
民法第467条では、債権の譲受人が債務者に対して自身が債権者であることを主張するためには、「譲渡人から債務者に対して債権譲渡の事実を通知」または「債務者の承諾を得ること」が必要で、通知または承諾は「確定日付のある証書」によって行うこととしています。
3社間ファクタリングによって債権譲渡を行うには、上記の手続きで債務者が売掛債権の期日に誰に対してお金を支払うかを明確にしなければなりません。
2社間ファクタリング
2社間ファクタリングは、売掛先の同意を必要としない性質から、3社間ファクタリングに比べて違法性を問われやすい取引です。
しかし、民法第466条の1項にあったように、売掛債権は「譲渡人の売掛先の承諾が必要なく、自由に売買できる性質」を持っているため、売掛先への通知および承諾を得ずに売掛債権を譲渡することは、違法となりません。
2社間ファクタリングは売掛債権という自由に売買できる債権の譲渡が行われるものの、登記をしないケースも多いことから、主に民法第555条の「売買契約」が適用されると考えられます。
売買契約とは、物やサービスを売却して、金銭を受け取るときに締結される契約のことで、債権を譲渡して金銭を受け取る2社間ファクタリングは、売買契約に該当します。
違法性のあるファクタリングの事例
売掛先の同意を必要としない2社間ファクタリングは、利用会社とファクタリング会社の合意があれば債権譲渡ができるため、取引先やクライアントの信用不安を招きたくない中小企業者が多く利用しています。
しかし、この2社間ファクタリングの利便性を悪用して、違法な契約を持ちかける悪質な業者も少なくありません。
ここでは、違法性が疑われるファクタリングの事例について解説します。優良業者、悪質な業者を見分ける際の参考になさってください。
ファクタリングを装った高利貸し
ファクタリングを装い、実質的な高利貸し(高金利での融資)を行っていた業者が摘発されるケースは少なくありません。
その手口は、表向きはファクタリング業者と名乗りながら、実際は売掛債権を担保に、法定金利を超える高い利息で貸付けを行うものです。
貸金業を営む業者は貸金業登録が必須で、利息制限法に定められた法定金利を遵守しなければなりません。
利用者の金利負担の軽減を図るための法律で、以下のように元本の金額に応じた上限金利が定められています。
- 元本の金額が10万円未満・・・上限金利 年20%
- 元本の金額が10万円以上から100万円未満・・・上限金利 年18%
- 元本の金額が100万円以上・・・上限金利 年15%
ファクタリングは貸付けではないため、お金を貸して利息を取ることはできませんが、このような偽装ファクタリングは、売掛先の同意が不要な2社間取引を隠れ蓑に、高利貸しを営んでいる悪質業者の手口として、警察や法務省が注意を呼びかけています。
「償還請求権あり」にも関わらず手数料に妥当性がない
償還請求権とは、売掛先が支払不能(デフォルト)に陥り、期日通りに売掛金が支払われなかった場合に、ファクタリング会社が利用会社に買い戻しを請求できる権利のことです。手形割引では、遡求権として知られています。
ファクタリングは、ほとんどの場合で償還請求権がない「ノンリコース契約」です。
償還請求権の無いファクタリングを提供している業者は、万が一のデフォルトリスクを全て引き受ける代わりに、法定金利を超える手数料を設定することができます。
しかし、通常のファクタリングの手数料を設定しておきながら、「償還請求権あり」の取引を持ちかける業者が存在しています。
ファクタリングの手数料は、出資法や利息制限法のような規制法がなく、その妥当性は、ファクタリング業者が相応のリスクを引き受けることにあります。
ファクタリング会社が償還請求権を保持してデフォルトリスクを負わないにもかかわらず、「償還請求権なし」と同等のファクタリング手数料を請求しているのであれば、手数料の妥当性に欠け、違法性があると言わざるを得ません。
「償還請求権あり」のファクタリング会社が、利用会社に高額な手数料を請求して裁判になった判例ではファクタリング会社側が「ファクタリング(債権譲渡)ではなく、債権譲渡担保付の貸金である」として有罪判決を受けています(大阪地裁平成29年3月3日判決)。
参考:https://www.aiben.jp/page/155soku.html
債権の一部のみを買い取って残りを債権回収後に支払う
ファクタリングは、利用会社が保有する売掛債権を、すべてファクタリング業者に譲渡し、債権分の現金を受け取るサービスです。
しかし、ファクタリング業者が買取代金の一部をいったん預かる形にして、利用会社から売掛金を回収した後、預かっている残りの買取代金を支払うとという取引を行った事例が報告されています。
ファクタリングにおいて、売掛債権の一部のみを買い取り、残りを債権回収後に支払うとした場合、残りの売掛債権については担保を取っているとみなされます。
売掛債権は、そもそも分割買取できない性質があるため、分割した時点で売掛債権を担保にした貸付とみなされ、貸金業法が適用されます。
ファクタリング業者が貸金業登録を行っていない場合は、出資法や貸金業法に違反します。
分割返済ができる
2社間ファクタリング利用後、売掛先から回収した売掛金は、指定の入金日までに一括でファクタリング業者に支払わなければなりません。
分割返済できるとなれば、この時点でファクタリングではなく貸付に該当します。
利用会社が「一括返済が難しいので、分割で返済できないか?」と相談して、ファクタリング業者がそれに応じるようであれば、むしろ悪質な業者であることが疑われます。
担保や保証人を要求する
ファクタリングは金銭消費貸借契約ではないため、担保や保証人が不要です。
しかし、悪質な業者から担保や保証人を要求されたという事例が報告されています。
金銭消費貸借契約でないファクタリングで担保や保証人を要求するということは、これも売掛債権が回収できなかった場合の債権の保全とみなされます。
担保・保証人ありのファクタリングを提供する業者が貸金業登録を行っていない場合は、貸金業法および利息制限法に違反する行為となります。
個人の給料を買い取る給料ファクタリング
昨今、給料日前に支払いが確定している給料をファクタリング業者が買い取って代金を支払う、「給料ファクタリング」というサービスが登場しています。
過去には、原告の給与ファクタリング業者が、被告の債務者に対し、7万円の給料債権を4万円で買取り、4日後に支払う契約で買戻し日の設定がなされたが、債務者がその支払いを履行できなかったことにより、業者が債務者に対して支払いを求める訴訟を提起した判例があります。
参考:http://www.j-factoring.or.jp/15851843641621
給料ファクタリングについては、判決がポイントとなっています。
- 給料ファクタリングは貸付に該当する
- 給料ファクタリングを行うものは、貸金業を営む者に該当する
- 貸金業法第42条1項の定める年109.5%を大幅に超過するファクタリングは、出資法5条3項に違反し、刑事罰の対象となる
これにより、給料ファクタリングは貸金と認定され、認可を受けていない給料ファクタリング業者は、貸金業法・出資法違反で刑事罰の対象となります。