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掛け取引では、期日に売掛金がなかなか入金されず、不安になるケースが起こりがちです。
売掛金の回収方法には、当事者間で話し合う・法的手段を用いるといった方法があります。取引先が連絡に応じない状況では、法的な手段の1つである「差し押さえ」の実行が必要です。
本記事では、差し押さえの概要・メリット・デメリット・手続きの流れなどについて解説します。差し押さえまでの流れを把握しておくことで、回収できるまでの日数を短縮しやすくなります。
売掛金を無事に回収できるよう、ぜひ本記事の内容を参考にしてみてください。
記事の目次
売掛金の差し押さえとは
差し押さえとは、支払いを怠っている債務者に対して、財産の処分を制限するなど強制執行を行うことです。
強制執行とは、国家権力によって強制的に債権を回収する手続きのことです。裁判所などの公的機関で許可を得て、合法的に売掛金を取り立てられます。
差し押さえを実行するには、債権の存在を公的に証明する「債務名義」という書類が必要です。
売掛金の仮差し押さえとは
仮差し押さえとは売掛金の回収に向け、公的機関を通じて財産の処分を制限する手続きのことです。
差し押さえが売掛金を直接取り立てるまでの効力があるのに対し、仮差し押さえは債務者に財産の処分を制限するまでの効力しかありません。
仮差し押さえを実行するには、自身が売掛金を保有している事実を証明する契約書などの資料が必要です。
差し押さえと仮差し押さえの違い
差し押さえも仮差し押さえも、最終的には売掛金の回収を目的とした手続きです。
細かい違いはいくつかありますが、大きく異なるのは、担保金と債務名義の要否の2つです。
担保金の要否
仮差し押さえでは、債権者が担保金を準備しなくてはなりません。
なぜなら、仮差し押さえには債務者が財産を隠したり処分したりする行為を防ぐ目的もあり、手続きを迅速に進める必要があるからです。
厳格に証明された公的な資料もなく手続きが進められるため、債権者の主張の誤りなどで敗訴する可能性もあります。
仮差し押さえは、第三債務者へ直接支払いを止めるよう命じられるため、トラブルの事実を知られたことにより信用不安を起こす可能性があります。
第三債務者とは、債務者の売掛債権を差し押さえるのであれば売掛先・銀行預金を差し押さえるのであれば、銀行のことです。
そのため、万が一不利益を与えてしまった場合には、債務者が損害賠償を受けられるよう担保金が必要となるのです。
担保金の相場は請求金額の1割〜3割程度で、訴訟が終了するまで裁判所に現金で預けます。
債務名義の要否
仮差し押さえは裁判官が確からしいと推測できる程度の資料で良いのに対し、差し押さえは公的に証明された債務名義が必要です。
債務名義は、強制的な取り立てを認める裁判所からの許可証でもあります。訴訟を起こす理由は、債務名義の取得が目的と言えます。
差し押さえの対象となる財産
対象となる財産は、資産であればどのような形でも差し押さえ可能です。
主に差し押さえの対象となるのは不動産・動産・債権の3種類で、もっとも活用されるのは債権です。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
不動産
債権者は債務者の所有する不動産を差し押さえ、競売にかけて売掛金の回収ができます。
不動産は価値が高いので売掛金を回収しやすく、財産を隠しにくい点がメリットです。一方で、デメリットは不動産の強制執行に多額な費用と長い時間を要することです。
不動産の差し押さえには、下記のような費用がかかります。
- 収入印紙代:4,000円
- 予納金:50万円~100万円
- 登録免許税:請求債権額の4/1000
費用は総額で100万円を超える場合もあり、期間は1年程度かかります。
動産
動産とは、現金・や貴金属・家財など不動産ではない財産のことです。
債権者は、債務者の住居や会社にある動産を差し押さえられます。ただし、現金や貴金属などすぐ現金化できる商品でない限り、売掛金の回収に至らず手間と費用だけがかかります。
処分しやすい物がなさそうであれば、ほかの財産を差し押さえた方がスムーズでしょう。
債権
債権とは、特定の人に対してなにかを請求できる権利のことです。
売掛金は売掛債権とも呼び、取引先に商品やサービスを提供して、後日お金をもらう権利を指します。
債権執行は、競売にかける手間もなく、第三債務者へ直接取り立てができるため、売掛金を早期回収しやすいのがメリットです。債権執行とは、債権への強制執行を指します。
デメリットは、不動産や動産のように現物ではなく債権は権利であるため、誰に対してどのような債権を保有しているか特定しにくい点と言えます。
強制執行のなかでもっとも多く活用されるのが、この債権執行です。
売掛金の差し押さえをするメリット・デメリット
この章では、売掛金の差し押さえをするメリット・デメリットについて解説します。
売掛金の差し押さえをするメリット
まずは、売掛金の差し押さえをするメリットから順番に見ていきましょう。
第三債務者に直接取り立てができる
当事者間だと連絡を無視される可能性もありますが、差し押さえは第三債務者へ直接取り立てを実行できます。
取り立てが実行できるタイミングは、債務者へ差押命令が送達された日から1週間後です。
売掛金を差し押さえれば、比較的簡単に回収できるでしょう。
債務者にプレッシャーを与えられる
売掛金の差し押さえを予告すれば、債務者にプレッシャーをかけて支払いを促すことが可能です。
売掛金を差し押さえてしまえば、債務者の資金繰りに充てる資金が枯渇します。強制執行では、相手の預金も差し押さえられるため、銀行預金から直接支払いを受けて回収もできます。
今まで支払いに応じなかった債務者が対応を急ぐ可能性は高く、債権者の有利な条件で交渉ができるでしょう。
売掛金の差し押さえをするデメリット
次に、デメリットについて解説します。
債務者に財産がなければ債権を回収できない
債権者が取立権を取得できたとしても、債務者に財産がなければ債権の回収ができません。
強制執行にかかる費用も法律上は債務者へ請求できますが、支払ってもらえるか否かは先方の財産次第となります。ましてや、自己破産をされてしまうと返済義務が免責となってしまうため、慎重に交渉していく必要があります。
第三債務者の特定が難しい
債務者の保有する売掛債権の詳細は、債権者自身で調べる必要があります。
どの企業と取引をしているのか、事前に把握しておかなければなりません。自分で調べる以外に弁護士へ依頼する方法もありますが、情報を集めやすいのは債務者と取引をしてきた自分でしょう。
売掛金の仮差し押さえをしておくメリット
次に、差し押さえの前に、仮差し押さえをしておくメリットについて解説します。
差し押さえよりも素早く実行できる
仮差し押さえは、申立日から早ければ1週間程度で行えます。
差し押さえの訴訟は慎重に進められるため、判決までに長ければ1年以上かかります。
回収こそすぐに行えないものの、債務者の収入源を一時的に途絶えさせられるため、財産隠しなどは防ぎやすいでしょう。
水面下で手続きを進められる
仮差し押さえの流れを時系列に並べると、債権者の申立て→第三債務者への通知→債務者への通知、の順番です。
債務者の収入を、先にストップできるので、財産を処分されるリスクが非常に低いと言えます。
仮差し押さえであってもプレッシャーを与えられる
仮差し押さえも、差し押さえと同じく予告すれば債務者にプレッシャーをかけられます。
仮差し押さえは直接回収する権利はありませんが、財産を凍結させることはできます。お金が入ってこなければ債務者の資金は枯渇し、放っておくと会社の存続の危機にもつながるでしょう。
強制執行できなくても、仮差し押さえは債務者に大きな危機感を与えられます。
売掛金の仮差し押さえをしておくデメリット
次に、売掛金を仮差し押さえするデメリットについて、見ていきましょう。
担保金を用意しなければならない
前述したように、仮差し押さえには担保金が必要になります。
金額は事例によって異なりますが、おおむね請求金額の1割〜3割程度です。支払い期限は、担保金の金額を伝えられた日から数日〜1週間程度です。
資金繰りに悩んでいる事業主にとっては厳しい支払いとなるでしょう。
短期間で証拠を用意しなければならない
仮差し押さえが認められるためには、被保全権利の存在・保全の必要性といった2つの要件を満たす必要があります。
被保全権利とは、売掛金・貸付金・工事代金などの金銭債権のことです。保全の必要性は、仮差し押さえをしなくてはならない正当な理由を指します。
上記の2つを、裁判官が一応確からしいと推測できる程度の資料を短期間で揃えなければなりません。
売掛金の仮差し押さえにおける手続きの流れ
売掛金の差し押さえをする一連の流れは、下記のとおりです。
- 財産を調査する
- 申立てをする
- 裁判官との面接が行われる
- 担保金を納付する
- 仮差し押さえが決定する
一般的には、仮差し押さえ→訴訟→差し押さえの順序で進められます。
1.財産を調査する
仮差し押さえをするには、債務者の保有する債権・動産・不動産などの特定が欠かせません。
たとえば、債務者がクレジットカード決済を導入しているなら、クレジットカードの債権を仮差し押えできます。そのほか、同業者・債務者の仕入先・販売先・知人など、第三者から情報を取得する方法もあります。
2.申立てをする
財産の調査ができたら、裁判所へ申立てをします。
管轄裁判所は、仮差し押さえの対象となる債務者の財産の所在地です。たとえば、売掛金であれば第三債務者の会社の所在地、預金口座であれば銀行の所在地を管轄する裁判所です。
午前中までに申立てをすれば翌日に裁判官面接を受けられますが、午後の手続きになると面接は2日後になります。急ぎであれば、朝一番に手続きを済ませておきましょう。
仮差し押さえの申立てに必要な書類は、仮差押申立書と疎明資料です。
疎明資料とは、下記のような書類を指します。
- 契約書
- 請求書
- 債務者とのメール
- 債務者に送付した催促状
- 債務者の資産内容がわかる資料
3.裁判官との面接が行われる
面接では、仮差し押さえの必要性について質問されたり、書類の追加の提出が必要になったりします。
とくに問題がなければ、裁判官からその場で担保金の額を口頭で伝えられます。
4.担保金を納付する
担保金は裁判所ではなく、法務局に供託します。
供託は振り込みも可能ですが、法務局側の準備ができた後に振り込む必要があるため、時間がかかります。急ぎであれば、現金で納付をしましょう。
5.仮差し押さえが決定する
仮差押決定が発令されるのは、裁判所へ供託正本の写しを提出した当日もしくは翌日の17時です。
発令されると、まず第三債務者の元へ、債務者への弁済をストップするよう通達されます。
なお、仮差押申立書の提出時に「第三債務者に対する陳述催告の申立書」を一緒に提出しておくと、第三債務者から売掛金の詳細について回答がもらえます。もし金額が想定より少なければ、この時点で債務者のほかの財産の差し押さえも検討できるでしょう。
債務者にも仮差押決定書は送られますが、売掛金が先に回収されないよう1週間程度ずらして送付されます。
売掛金の差し押さえにおける手続きの流れ
ここからは、差し押さえの手続きの流れについて解説します。
1.債務名義を取得する
強制執行の許可証となる債務名義を取得しましょう。
仮差し押さえでは、直接第三者へ取り立てられる「取立権」が発生しません。
そのため、仮差し押さえで回収できなかった場合には、あらためて訴訟を起こし、勝訴判決をとって強制執行する必要があります。
確定判決を得るために必要な期間は、長ければ1年以上かかります。
2.強制執行の申立てをする
債務名義を取得できたら、強制執行の申立てをしましょう。
申立てに必要となる書類は、下記のとおりです。
- 債権差押命令申立書
- 当事者目緑(債権者、債務者、第三債務者の名称や住所などを記載)
- 請求債権目録(債権者が債務者に対してもつ債権の一覧)
- 差押債権目録(差し押さえをする債権)
- 債務名義の正本
- 債務名義の送達証明書
- 資格証明書(債務者・債権者・第三債務者のいずれかが法人の場合)
- 収入印紙4,000円と郵便切手
債権差押命令申立書・当事者目録・請求債権目録・差押債権目録は、裁判所のホームページで書式を取得できます。
売掛金の未回収を防ぐにはファクタリングが有効
売掛金を回収する方法を解説してきましたが、未回収を防ぎたいならファクタリングの利用がおすすめです。
ファクタリングとは、売掛債権を売却して、期日より早く現金化する資金調達方法です。
ファクタリングは、おおむね下記の流れで取引が行われます。
- 自社が売掛先に商品やサービスを提供して、売掛債権が発生する
- 自社がファクタリング会社に売掛債権を売却し、5%〜20%程度の手数料を差し引いた売掛金の額が振り込まれる
- 売掛先から入金があり次第、ファクタリング会社に送金する
万が一、ファクタリング会社から振り込まれた後に、なんらかの事情で売掛先から入金されなかったとしても差し押さえの必要はありません。
ファクタリングは原則、お金の支払いを求める権利である「償還請求権」がない契約を結ぶからです。契約時に手数料を支払う代わりに、未回収リスクもファクタリグ会社が負います。
ただし、明らかに回収不能となるリスクの高い売掛債権は、ファクタリング会社も買い取りができません。
しかし、審査に柔軟なファクタリング会社も多く存在します。売掛金の未回収による被害を防ぐためにも、一度、ファクタリング会社に相談してみてはいかがでしょうか。
売掛金を早く差し押さえて損失を最小限にしよう!
売掛金の差し押さえは、実行が早ければ早いほど損失を最小限に抑えられます。
債権未回収から期間が空いてしまうと、その間に財産の処分が行われてしまうからです。前述したように、債務者に財産がなければ差し押さえはできません。
また、債務者が自己破産をして返済義務が免責となってしまう可能性もあります。
損失を抑えるためにも、売掛金の未回収は早期に対策をとりましょう。